2021年03月12日

【支部リポート】北海道 99歳「生活図画事件」語り継ぐ 最後の生き証人=高田正基

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 とうとう1人になってしまった。菱谷良一さん、99歳=写真、旭川市在住=。治安維持法違反容疑で当時の旭川師範学校と旧制旭川中学の美術教師や生徒ら26人が逮捕された「生活図画事件」の最後の生き証人である。
 菱谷さんの師範学校生時代からの親友で、一緒に投獄された松本五郎さんが昨年10月、死去した。ともに事件の最後の証言者として、民主主義や自由が踏みにじられる恐ろしさを語り継ぐ活動に尽力していた。
 2019年秋、札幌の画廊で「親友展」と題する2人の作品展が開かれた。わたしはそこで久しぶりに菱谷さんにお会いしたあと、すっかりご無沙汰していた。
 コロナ禍で、高齢の菱谷さんに直接会うことが叶わないなか、先日、旭川の知人を介してビデオ通話ができた。スマホの画面越しの菱谷さんは、親友の死に気落ちしていると聞いていたが、若々しさは相変わらずだった。活舌は若い者にも負けないくらいだ。
コロナ禍が収まればぜひJCJでも講演してほしいとお願いしたら「自分にできることなら喜んで」と元気に答えてくれた。
 今年11月に百歳になる。6月には旭川で百歳記念の個展を開く予定だという。
 菱谷さんと松本さんについては、15年に北海道綴方教育連盟事件の実相を追った「獄中メモは問う」でJCJ賞を受賞した北海道新聞の佐竹直子記者や、昨年「ヤジと民主主義」というドキュメンタリーで同じくJCJ賞に輝いた北海道放送(HBC)の記者たちが取材を続けてきた(JCJの評価の目はやはり確かだ)。
 佐竹記者の最近の記事によると、松本さんは亡くなる前の昨年8月、菱谷さんに手紙を渡していた。そこにはこう書かれていた。
「もう限界だ あと証言は君にまかせる 民主主義の力となるまでたのむよ」
事件を語り継ぐ責任はジャーナリストにもある。            
高田正基
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年2月25日号

posted by JCJ at 02:00 | 北海道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする