本書は、長年この運動 の最先端で活動してきた教科書全国ネット21の前事務局長・俵義文氏が、大学の教職課程での講義を軸に、これまでの著作も生かして、戦後の教科 書運動史として執筆・構成したものである。
なお書名が「戦後教科書運動史」となっているが、戦後の運動の理解のため、戦前までの教科書制度と教科書の歴史について、全15章の最初の第1章を宛てている。
著者は「教育や教科書 の改善とそれに対する反動=教科書攻撃と国家統制の強まりが繰り返されてきた」なかで、杉本判決を引き出した家永教科書裁判の運動は、教科書改 善にとどまらず、教育を子どもの学習権にそって改善させる大きな成果だと指摘している。
特に教科書出版関係の労働者や組合の活動が大きな役割を果たし、労働組合運動を「鍛えた」との記述があるのも、出版出身である著者ならではの叙述だ。
「教科書攻撃は日本の 再軍備問題と憲法改悪の動きが強まったときであり、軍国主義路線、憲法改悪と教科書攻撃はいつも一体のものとして出てくる」と著者は述べる。 昨今の状況をみると運動を担い、リードしてきた著者のこの言葉は重い。
子どもの教育や教科書問題に関心のある人々だけでなく、国が教育統制に奔る危機を感ずる多くの人々が読んでほしい。(平凡社新書1600円)
