2021年03月23日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】今こそ通信放送認可の第三者委員会の設立を

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  米バイデン政権が就任早々の1月20日、真っ先に取り組んだのは「言論の自由」だった。
1月20日、新大統領の仕事ぶりに接しようと集まった記者団の前に現れたのは新任のジェン・サキ報道官。「私は独立した報道に深い敬意を持っている。米国民に正確な情報を提供する目標は共有している」、「(大統領も私も)透明性と真実に重きを置く」と語った。前のトランプ政権とは大きな違いだ。

 切って捨てる返答
 菅義偉首相は8年の長きにわたり官房長官として政治をとりしきってきたが、その間に様々なネガティブルールを作り上げてきた。例えばコロナが再拡大後初めての1月4日の総理記者会見は6人の記者が質問しただけで打ち切られた。「幹事社以外は一人1問、再質問は認めない」、「会見出席は一社一人に限る」というのが、彼が設定したルールだ。
官邸会見室は120席あったのがコロナを理由に29席に減らされた。そのうち内閣記者会外加盟社が19席を占める。残りの10席を専門記者会、雑誌協会、ネット協会、外国メディア、フリー記者が抽選で分け合う。(ちなみに、内閣記者会の正会員社は103社、365人)。
2月28日に、大阪など6府県の緊急事態を解除した際には、首相会見も開かず、26日にぶらさがり(立ち話)で記者たちの質問に答えるにとどまった。菅首相が首相広報担当にした、汚職問題が発生した山田真貴子広報官を擁護するためであったとみられる。3月1日山田広報官は辞職した。
  官邸記者クラブの一問一答を聞いていても民主主義からは程遠い、切って捨てるような返答か政府から帰ってくるだけだ。「透明性」と「真実」を回復したアメリカのメディアと政治の関係はうらやましい限りだ。(ホワイトハウスの記者会証を持つ記者は750人前後、会見室は狭い部屋で49席を分け合っている)。

 問題抱えるNHK
 放送に目を転じると、NHKと政府の癒着が著しい。かんぽの不正を伝える番組を中止(2018年4月)させた張本人である森下俊三氏(当時経営委員長代行)がその後経営委員長に昇格、今回再任された(3/9)。経営委員会が番組には介入してはならないという放送法があるのを無視して菅首相が決定したものである。森下氏は今回問題になっているNTT出身だ。経営委員会の委員長職務代行に選任された村田晃嗣(同志社大教授)は右翼的言辞で知られる。
 一方、市民の間に人気のNHK、有馬嘉男アナ、武田真一アナの降板が発表された。昨年10月首相に選出された初出演(10/26)で、有馬アナは日本学術会議問題について質問を重ねたことが原因で、官邸の怒りを買い、降板につながったといえる。原聖樹政治部長のもとに官邸から𠮟責の電話がかかってきたと伝えられる(週刊文春2/25)
武田アナの場合は二階博幹事長の出演に際し、「政府のコロナ対策は十分なのか、さらに打つ手があるとすれば、何が必要か」を問いただした。それが二階氏の逆鱗を買ったのだといわれる(週刊文春2/25)。
 NHKスペシャルで「令和未来会議、どうする?東京オリンピック・パラリンピック」という番組があるとTVガイドに載っていた。見ようと思って待ち構えていたところ、内容が全面差し替えになり、「わたしたちの目が危ない」というどうでもいいような番組に差し替えられた。前例のない出来事だ。週刊現代(2/13)が「Nスぺ五輪特集がお蔵入り、局内騒然、官邸の影」、「前田晃伸会長が総理に言われて差し替えたか、忖度したかのどちらかだ」、と報じた。五輪問題のNHKスペシャルは、諸外国からの観客を受け入れないことが決まった後、3月22日にようやく放送されたが、内容は薄いものだった。NHKがかくも政府、自民党に屈している姿は、民主主義とは程遠い。(→続きを読む)
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 シネマ4K姿消す
 ところで最近「東北新社」という会社の汚職が問題になっている。この会社は、テレビ初期に、アメリカから「ハイウエイ・パトロール」など多くのテレビ映画を輸入して、生まれたての日本のテレビ局に売り込んできた会社だ。その後映画の輸入、配給、吹替、字幕、CM制作などを手掛けた。
 1984年からスターチャンネルという映画チャンネルで衛星放送に乗り出した。そして2018年から新たに開局したのがBSの洋画専門「ザ・シネマ4K」、スカパー「囲碁将棋チャンネル」だった。
菅首相の長男らが、許認可権限を持つ総務省の幹部らと会食したのが、2016年7月、認定を申請したのが同年10月。地上放送、衛星放送などを総合的に所管している総務省に認可するよう協力に働きかけたことは、容易に想像できる。
「ザ・シネマ4K」の放送は近く姿を消す。申請に虚偽があったとして認可が取り消されるからだ。

 総務省が牛耳る
 NHKも民放も衛星放送も放送の許認可権を持っているのは総務省だ。
日本では当たり前のように放送局が政府(総務省)の傘下に置かれているが、国が放送を直接管理しているのは世界では、中国、ロシア、北朝鮮、ベトナムの4か国だけだ。その他の国々では言論、表現の自由と客観性を保つために放送の許認可は第3者機委員会にゆだねている。アメリカは、連邦通信委員会、イギリスは放送通信庁、韓国は放送委員会などだ。ドイツでは州ごとに市民活動組織、文化芸術団体の代表者が放送局の管理監督にあたっている。付言すれば、イギリス、アメリカをはじめ多くの国で、電話、各種デジタル通信なども、放送に関与する第3者委員会が管掌している。通信放送一体化の時代にふさわしい体制だ。
 今回日本で、衛星放送の会社東北新社とNTTで認可や、制度変更をめぐって汚職が発生しているのは、偶然のことではない。

 恣意的な介入多発
 日本では政府がNHKの人事を左右するだけではなく、番組の気に入らないものを排除している。菅首相、二階幹事長らのNHK出演時のアナウンサー更迭問題(前出)にとどまらず安部前首相(当時は内閣副官房長官)ETV2001「問われる戦時性暴力」介入( 20011年1月)、高市早苗元総務相の報道ステーション批判の際、「公平性を欠く放送が繰り返されれば、電波免許を取り上げる」発言(2016年2月)、など政府与党による放送への介入は枚挙にいとまない。
 私は以前から有識者らによる第三者委員会に放送行政をゆだねることを提案してきた。この機会にその実現へ向けて、発言を強めていきたい、
隅井孝雄 (ジャーナリスト)
posted by JCJ at 02:00 | 隅井孝雄のメディアウオッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする