2021年04月15日

【おすすめ本】榊原崇仁『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』─「100ミリシーベルトの少女」 を通して被ばくの歪曲に迫る=鈴木 耕(編集者)

 調査報道のお手本のような作品である。著者は東京新聞記者。福島原発事故が起きたとき、石川県の北陸本社勤務。すぐに石川県の志賀原発は果たして大丈夫なのかと疑問を持つ。
 やがて東京本社特別報道部に移り、福島に通い始めて原発事故が抱える別の恐ろしさに突き当たる。それが子ども被ばく調査の闇だった。
 著者は情報公開制度を利用し、被ばく関連のあらゆる資料を請求し始める。そこで目にしたのは「100ミリシーベルトの少女」の存在だった。
 「甲状腺等価線量100ミリシーベルト」は政府も福島県も「甲状腺がんの発症リスクが増加する数値」と認めていた。その数値に達する被ばく少女がいたとすれば大問題だと著者は思ったが、なぜか埋もれたまま。その理由は何か。記者魂がうずく。

 著者は数万枚に及ぶ資料を、情報公開制度で入手し、根気よく丹念に読み込んでいく。資料から関係者を洗い出し、インタビューを申し込む。応じてくれる人もいれば、けんもほろろに拒否する人もいる。
 著者は挫けない。まるでミステリ小説のように、謎の薄皮を1枚1枚剥ぎ取っていく。そこから見えてきたのは歪曲と工作だった、と記す。
 スリリングな展開で謎は少しずつ晴れていくものの、立ちはだかるのは、やはり<巨大な組織>だった…。
 ミステリ小説には解決の結末が待っているが、残念ながら本書にはそんなカタルシスはない。隠蔽の謎はまだ手の届かないところにあるからだ。
 だから著者には、手を緩めずに、2発目3発目の弾丸を撃ち込んでほしい。(集英社新書900円)
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posted by JCJ at 02:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする