2021年04月23日

【おすすめ本】フリート横田『横丁の戦後史 東京五輪で消えゆく路地裏の記憶』─土地の古老からじっくり横丁が紡いだ物語を聞きだす=南陀楼綾繁(ライター)

 東京は成立以来、つねにスクラップ&ビルドを繰り返してきた。この数年は、二度目のオリンピックを前に古い横丁や小路が姿を消しつつある。
 著者は毎夜のごとく、狭い通りにひしめくスナックや小料理屋で飲みながら、ママや常連客に昔話を聞く。
 そうした「夜の取材」 だけでなく、土地の古老に会って話を聞き、特殊な資料を読み込んで、この場所がなぜ生まれたかを探っていく。
 その横丁の探偵ぶりに唸るのは、第二章「在日 コリアンの横丁」だ。浅 草の国際通りに面した「焼肉横丁」のあった場所は、かつて十二階下と呼ばれた売春街(石川啄木も通った)だったが、 関東大震災で消滅。その空白地帯に終戦直後、戦災者の救済目的で木造長屋が建てられる。

 著者は、この長屋をつくった二人を歴史の闇から引っ張り出し、彼らが夢見たものを描く。同時に、同じ場所が在日コリアンの楽園になっていった事情を明らかにする。
 きれいだが面白みのない街に飽きたレトロ趣味の若者は、これらの横丁にずかずか入り込み、写真をネットに載せる。取材にもそういう暴力性があることを、著者は自覚している。それでも知りたいという業のようなものが、彼を突き動かしているのだろう。
 著者の視点は過去だけでなく、現在にも向けられる。池袋のチャイナタウンには、多くの中国人がSNSで情報を得てやって来る。そして、物理 的にも人間関係的にも「密」である飲み屋は、 コロナ禍を経てどうなっていくのか。過去を通して、横丁の未来を見据える一冊になった。(中央公論新社1500円 )
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posted by JCJ at 02:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする