2021年04月26日
新聞労連ジャーナリズム大賞特別賞に神奈川新聞・石橋記者 ヘイトスピーチ許すな 敵は差別のプロ 試される本気度=伊東良平
2016年のJCJ賞を受賞した神奈川新聞の「時代の正体」のデスクを担ったのが石橋学記者(写真)。現在、川崎総局の編集委員としてヘイトスピーチを行う団体の動きなどを積極的に取材して連日のように報道している。その石橋記者の「時代の正体・差別のないまちへ」など、一連のヘイトスピーチに抗う記事に対して、新聞労連の2020年度第25回ジャーナリズム大賞の特別賞が贈られた。
また石橋記者はヘイトスピーチに関する一連の記事についてヘイト側から名誉を棄損されたとして2件のスラップ訴訟を起こされていて、横浜地裁川崎支部で裁判が行われている。受賞や訴訟などヘイトについての現状を石橋記者に聞いた。伊東良平
ゴールは先
賞は大変ありがたくいただきました。差別に抗って勇気を振り絞って声を上げた当事者と市民を取り上げてきたので、差別と闘うすべての人たちの活動が評価されたと思っている。しつこく長くこだわって書いてきて、少しずつ変化が生まれているが、まだ差別をなくすゴールに届いていない。区切りがついたわけではないしレイシスト(差別的な言動をする人)がより活発化するなど、状況は悪くなっている。改めて賞をもらって、ひき続き記事を書き続けなければならないと思う。
より狡猾に
今年になってレイシストの活動が活発化している。川崎市の差別根絶条例に反対している日本第一党の最高顧問の瀬戸弘幸氏が今秋の川崎市長選に向けて市内に引っ越してきて以来、連日のように街宣車を使って条例をデマで捻じ曲げて憎悪をあおっている。差別に対して最も厳しき対処する条例が出来て、「死ね」「殺せ」など露骨な言葉はなくなったが、条例を攻撃することで罰則に抵触しないような形で在日コリアンを攻撃する、より狡猾でより執拗なヘイト活動を続けている。
2016年にヘイトスピーチ解消法が出来て、在日特権を許さない会(在特会)への社会の目は厳しくなった。そこで日本第一党を立ち上げたが衣替えしただけで、政治団体を装って生き残りを図り抜け道を探して活動している。川崎市長選で市長の対抗馬になることで行政はより慎重な対応にならざるを得ないことを見越していて、川崎区内に拠点を設けて街宣車を走らせている。
条例の全面施行以来ヘイトの川崎駅前の宣伝行動は14回を数える。それまでは数か月だったものが2週間に1回のペースに増えている。川崎の条例がほかの地域に広がらないようにと、在日の人たちが日本人に不利益を与える存在だとして差別を煽っている。
タッグ組んで
差別活動に目を向けて、行政がきちんと批判していく必要がある。ヘイトスピーチに「あたる」「あたらない」をジャッジするのではなく、差別は許されないことだと言わなければいけなかったが、そうはしなかった。その結果、ヘイト活動にお墨付きを与えるようなことになり、頻繁に行われる状況になってしまった。
行政には手ごわい差別のプロと対峙しているとの構えが足りていない。立派な条例が出来たけれど使いこなせていないので、市民と行政・議会のオール川崎で、改めて差別の被害をどうしたら食い止められるかという原点に立ち返って、タッグを組んで隊列を組みなおす必要がある。全国のレイシストは川崎の条例をつぶそうとしている。差別をなくす本気度が試されている。
矢面に立つ
彼らを批判して対峙するということはこういう理不尽な訴訟を起こされることも織り込み済みで、きちんと受けて立って戦っていく。彼らはジャーナリストを委縮させることが狙いなので、新聞社やジャーナリストが差別に矢面にたつということは大切なことだと思う。勝ち負けではなくて、訴えること自体が目的なので、彼らの思惑にいかに乗らないかだと思う。
レイシストを相手にしている以上は受け止めて跳ね返すことが大事。僕を攻撃することで当事者のマイノリティを攻撃していることになるので決してひるんではいけない。彼らがこんなことまでするのだということが理解をされて記者を守ろうという市民の人たちの連帯の輪が広がり、市民が法廷に傍聴に足を運び支えられている。いかに不当なことをやっているかを明らかにするような判決を勝ち取っていきたい
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年3月25日号