菅義偉内閣が、今国会の看板政策として掲げる「デジタル改革関連法案」が、3月9日、衆院本会議で審議入りした。鳴り物入りで宣伝された「デジタル庁」の新設を決める法律。しかしこの法律の裏にあるのは、いろんな分野で使われているナンバーを、横に串刺しにして一元化、自由に利用して国民支配を可能にする危険な意図だ。
既に、日民協、青法協、自由法曹団などの法律家団体と情報法学者などの「デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク」は、修正を求める意見書を出した。だがメディアの問題意識は乏しいのか、報道も少ない。政府・与党は予算関連法案として四月中に成立させたい、との意向も示されており、警戒が必要だ。
個人情報を紐付け
関連法は、@デジタル社会形成基本法案Aデジタル庁設置法案Bデジタル社会形成整備法案C預貯金口座登録・管理法案D地方公共団体情報システム標準化法案―など。このほかに、手続きで48の法律改正や、32の国家資格者へのマイナンバー義務づけが含まれている。いくつかの問題があるが、まず1つは、いままで別々のデータとして守られていた個人データについて、個人の情報管理権を無視して「データ共同利用権」を打ち出し、健康情報、税金情報、記入情報、運転免許、前科前歴情報などが、中央と地方で共通化され、紐付けされる点だ。
その結果、これまで厳しく意識されていた、個人の「プライバシー」は医療や、個人関係、収入、財産など、いわゆる「センシティブ情報」まで国に吸い取られ、一元化される。医師、看護師、保育士などの国家資格にはマイナンバーを義務づけられ、警察―首相官邸にも結びつけが可能だ。
つまり「行政が持つ個人情報すべてについて国による統一的な規制をする」ことになりこれまでの不十分と言われながら守られてきたプライバシーの権利が根底から覆されようとしている。
情報保護規定なし
法案には、プライバシーについての保護規定は全くなく、それを扱うデジタル庁をはじめとする情報機関に対する欧米のような監視システムもない。公権力がデータを網羅的に収集、検索することへの規制もない。
さらに問題なのは、この法案、デジタル庁設置の宣伝に野党もメディアも惑わされ、内容について十分な検討も報道もされていないことだ。
関連法では、デジタル庁設置法や、個人情報保護法からマイナンバー法までいくつかの法律改正で、これまでの原則が壊されているほか、手続きの見直しで48の法律を改正する。こうした「束ね法案」は、最近の政府の常套手段だが、こうした場合、法案だけでも膨大で、国会でも各党のプロジェクト・チームが検討できるかどうかがやっと、という場合が少なくなく、今回も同様だ。法案、要綱などを合わせると3000nに達している。そのため、メディアは今だに追いつかず、報道は不十分。一般国民は知らないうちに、自らの情報を国に握られ、支配される事態になりかねない。問題に警鐘を鳴らしたい。
丸山重威
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年3月25日号