2021年05月08日

【放送】総務官僚接待とメディアの責任 通信・放送への政治介入を許すな=隅井孝雄

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衛星放送事業会社東北新社、日本電信電話株式会社(NTT)による総務省幹部の接待が、次々に明るみに出ている。総務省の通信放送分野は菅義偉首相の拠点とみられ、また首相の長男菅正剛氏が接待の席の多くに姿を見せている。首相自身の関与も含め、大きな政治問題となっている。
週刊文春/文春オンラインの特ダネで詳細が明らかになった。新聞放送などの後追い取材は基幹メディアとしての責任が問われる事態だ。

役人の無軌道
東北新社では2016年以降4年間に39回、13人の総務官僚らが接待された。またNTTでは2018年から20年にかけての間、10件の接待が確認されている。接待を受けた総務官僚の中には首相側近、谷脇康彦総務審議官(当時)の名もあり、また同じく首相側近の山田真貴子内閣広報官(当時)も高額接待を受けていた。
谷脇氏や巻口英司国際戦略局長らはNTTからも4回にわたって15万円の高額接待を受けた、また武田良太総務相がNTT沢田純社長と会食(2020.11.11)している。
11人の総務省官僚が懲戒処分された(うち3人は更迭)。菅首相側近、山田氏は3月1日、谷脇氏康彦氏は3月16日辞任に至った。
総務官僚たちの無軌道ぶりは目を覆うばかりだ。

すべて申請通りに
東北新社は外国映画の日本語吹き替え業として1961年に設立された。初代社長の植村伴次郎氏(故人)は、テレビの初期に米国テレビ映画「ハイウエー・パトロール」、「ララミー牧場」、「奥様は魔女」など日本語版制作の豊富な経験を持つ。その後映画専門の「スターチャンネル」をきっかけに、1989年以降、衛星放送業界に参入した。
総務省官僚の度重なる会食について、当初総務省は業務の話はなかったとしていたが、文春が報じた音声記録で衛星関連の会話が確認された。
東北新社は衛星で多くの問題を抱えていた。「囲碁将棋チャンネル」のCS認可(18年4月)、「ザ・シネマ4K」の認可(18年12月)、「スターチャンネル」の免許更新(20年12月)など、すべて申請通り認可された。
総務省の「衛星放送の未来像」研究会(2018年~2020年)では、新4K/8K衛星について議論されたが、利用料低減など衛星業界に有利な報告書が出た。東北新社は衛星協会の会長社だ。ここでも総務省への働きかけがあった。
追及の過程で、明らかになった外資規制違反時に認可された「ザ・シネマ4K」は5月1日をもって放送休止となる。
NTTの谷脇氏らへの接待は2018年6月から2020年12月にかけてだった。菅官房長官(当時)が「携帯電話料金を4割程度下げる余地がある」と発言(2018年9月)、総裁選出馬会見(2020年9月)で「更なる携帯値下げ」を表明した時期だった。
NTTは2020年11月、ドコモを子会社化した。これにより、菅政権の携帯値下げ要請下、NTTドコモが携帯業界で断然優位に立った。

まるで独裁国家
総務省は2001年の中央官庁再編時に、自治省、郵政省、総務庁を統合して設置された。戦前の内務省に似た機能を持つ巨大組織だ。
総務省は解体し、運輸、郵便、通信、放送などの分野は政府から切り離し、行政委員会に任せるべきだ。特に不祥事多発の通信放送の独立は急務だ。
国が直接通信、放送の監督権限を握っているのは、中国、北朝鮮、ロシアなどの社会主義独裁国家だ。通信、放送は第三者行政委員会に委ねるのが世界の常識、アメリカ連邦通信委(FCC)、イギリス放送通信委(Ofcom)、韓国放送通信委(KCC)などである。

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日本にもあった!
日本でも実は「放送委員会」が存在していた。「(戦時中)輿論を表現する重要な機関(筆者注、日本放送協会)の管理運営に関し日本国民は発言権を有さず今日に至った」との占領軍からの批判が出された。1945年年(昭和20年)12月のハンナーメモである。再組織を促された日本放送協会は1946年 (昭和21年)1 月、放送委員会を発足させた。
委員は17人、科学技術、農業、実業、芸術、学界、婦人、労働、新聞出版、青年の9分野を代表する人物で構成された。委員中には大村英之助(映画人)、加藤シヅエ(社会党議員)、宮本百合子(作家)、荒畑寒村(労働運動家)、岩波茂雄(岩波書店主)など名がみられる。放送委員会は同年3月、戦後初のNHK会長に高野岩三郎(大原社研所長)を選出した。放送委員会はその後放送協会労組の調停役になった以外目立った動きがなく、 1949年(昭和24年)5月、解散した。日本政府はGHQの要請に渋々ながら従い、電波と放送を管理監督する電波監理委員会を政府から独立した行政委員会として1950年(昭和25年)6月発足させた。
しかし1952年(昭和27年)、日本の主権が回復されると、その年の7月電波監理委員会は廃止され、郵政省(のち総務省に移管)が直轄することになった。

野党が共通政策
1996年(平成8年)橋本竜太郎政権下の行政改革会議で、通信放送委員会を設置する案が出されたが、郵政省の反対で実現しなかった。また、2009年に民主党が与党となり、通信・放送委員会を設置する方針を決めたが、これも郵政省の反対で法案提出には至らなかった。
最近では2016年(平成28年)と2019年(令和1年)の参議院選挙の際に、市民連合と5野党との間で交わされた「共通政策」の項目に「国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から外し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること」との一項が設けられている。
菅政権はデジタル庁を構想しているが、これは総務省と両輪で通信、メディア、IT、インターネットなどを掌握し、市民の情報を管理する危険なたくらみだ。
汚職まみれの総務省の即刻解散と通信放送第三者委員会の設立が急務だ。
隅井孝雄(JCJ代表委員)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
posted by JCJ at 02:00 | 放送 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする