デジタル庁創設を肝とするデジタル改革関連法案の国会審議がつづいている。だが、この法案の内容を知る人がどれほどいるのだろうか。
首相をトップとするデジタル庁のもとで、省庁や自治体が集めた個人データを一元管理し、行政手続きの利便性を図るというふれこみだ。一方で、行政が保有する個人のデジタル情報を政府が独占する恐れがあり、思想信条や犯罪歴、病歴などの「要配慮個人情報」の収集や記録のあり方に影響を与え、監視国家化へと舵を切りかねない。
自治体ごとにつくってきた個人情報保護の原則をリセットする「個人情報保護の規制緩和だ」と批判する専門家もいる。政府は個人情報保護委員会の機能を強化するというが、そもそも日本は欧米と比べ、監視システムの整備が遅れている。
関連法案は63本もの新法や改正案を束ねた大型法案にもかかわらず、菅義偉首相は看板政策として何としても早期に成立させたい意向だ。平井卓也デジタル改革相自らが「霞が関の常識を越えたスピード」で進められていると認める。
国民生活に密接にかかわるため、慎重な審議が求められる重要法案であるものの、衆院内閣委員会での審議時間はわずか27時間半。衆院本会議で4月6に可決され、舞台は参院に移った。
ここで強く指摘したいのは、この「デジタル法案」の中身や国会審議の経過を丁寧に報道していないことだ。在京6紙のうち、6日の衆院通過までに朝刊1面で審議の模様や解説を報じたのは東京新聞(3月30日、4月3日、7日)だけで、他紙はまともに扱っていない。ほかに重要法案もなく、今年度予算も成立している。
コロナ禍や総務官僚接待問題などに、野党も報道も追われているというのは、言い訳にならない。国民の生殺与奪にかかわる個人情報の行方について、分かりやすく説明するのが新聞の外せない役割であろう。繰り返すが、目立つ扱いで報道しているのは東京だけで、あとはアリバイ程度の貧弱さで、不可解でもある。
法案が成立してから、いくら書いても後の祭りだ。事前に問題点を指摘し、修正あるいは廃案を求めていくべきではないか。参院での成立は5月中旬になりそうだ。いまからでも、しっかりと書いてほしい。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号