2021年05月24日

【福島第一原発事故】新聞各社が総力紙面 朝毎 原発回帰の底流に警告 読売の論調に変化の兆し=高橋弘司

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未曾有の被害を出した福島第1原発事故から10年となった今年3月、主要新聞社の報道は、「歴史を刻む」という新聞の使命を思い起こさせる質と量だった。各紙が総力を挙げて伝えた紙面を振り返る。
国論を二分する原発問題を各紙はどう報じたか。まずは3月11日前後の社説や記者論文をみてみよう。朝日新聞社説は事故後の2011年7月に社説で打ち出した「原発ゼロ社会」をめざすべきとの提言を振り返り、「生々しい記憶が10年の歳月とともに薄れつつあるいま、脱原発の決意を再確認したい」と強調。そのうえで事故直後、「30年代の原発ゼロ」を打ち出した民主党政権に代わり、翌年政権を奪還した自公政権が原発推進に針を戻してしまったと批判した。
毎日新聞社説は過去10年の日本のエネルギー政策を「現実から目を背けた原発回帰だ」と指摘、「結果的に再生可能エネルギーを急拡大させる世界の潮流から取り残されてしまった」と政府に原発政策の再考を強く迫った。「復興五輪」のスローガンがいつの間にか「コロナに打ち勝った証」とすり替えられた欺瞞を突き、「10年は節目ではない」と喝破した1面の福島支局長論文にハッとさせられた。

  産経は推進
一方、読売新聞社説は「惨禍の教育を次代につなごう」と訴えながら、福島の被災地について「再生への道筋を見いだせずにいる」などと短く触れたに過ぎず、原発問題への踏み込みを避けた。
これに対し、産経新聞社説は「廃炉前進に国は全力挙げよ」と強調。そのうえで温暖化防止に向けた世界の潮流を意識し、菅政権が「50年までの温室効果ガス排出実質ゼロ」を表明したことに触れ、脱炭素に向けた現実解は「原発ベース電源復帰をおいて他にない」と原発推進を鮮明に打ち出した。一方、東京新聞社説は福島県双葉町に昨年開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」の展示に、安全神話を掲げ、原発誘致を主導した国や県、東電の責任などへの言及がないと指摘、「影をこそ伝えたい」と批判した。

次に特徴的な紙面を見てみる。まずは朝日新聞が原発回帰への時代の底流に警鐘を鳴らした点が目を引いた。3月7日付朝刊で「脱炭素の裏〜原発復権画策」と書き、3月5日付朝刊で「静かに進む原子力回帰」と3人の識者の見方を紹介、国民の間で十分な議論がないまま進む現状を批判した。民族学者の赤坂憲雄さんが震災直後、「東北はまだ植民地だったのか」と新聞寄稿で書いた状況から「変わっていない」と指摘したインタビューも印象的だった。

 多角的視野で
毎日新聞は震災直後、首相の諮問機関「復興構想会議」が震災からの復興を目指して打ち出した7原則を1つずつ検証する「提言は生かされたか」と題した連載を3月1日から連日、3面で大きく展開。「除染対策」「再生エネルギー」「伝承」など多角的な視点で復興の問題点を浮き彫りにする試みが新鮮だった。
記事量で圧倒的だったのは読売新聞だ。3月1日から11日まで連日、「東日本大震災10年」と題し、イラストや写真をふんだんに使ったカラー特集を掲載。事故当時を住民証言で振り返る「被曝の恐怖」、住民帰還の現状を憂える「帰還なお見えず」、避難した3世帯のその後を追跡した記事など力作が目立った。

また、東京新聞は40年の廃炉原則を超えた原発が相次ぎ稼働しようとしている現状を見据え、「老朽原発〜危うい未来」と題した見開きのカラー特集を組み、ぶれない「反原発」の姿勢を示した。産経新聞は震災当時、多数の艦船、航空機を投入して被災地の復旧・復興に貢献した米軍の「トモダチ作戦」などで自衛隊の活躍ぶりを強調する記事が目立ち、やや過度に映った。
旧来の論調に変化の兆しが見られたのが読売新聞だ。3月1日付朝刊社会面トップで、福島県双葉町の商店街入り口にかつて掲げられていた「原子力、明るい未来のエネルギー」と題した広告塔の標語を小学校6年時に作った大沼勇治さん(44)を紹介。事故後の2011年夏、大型バスに町民が乗り、防護服姿で初めて立ち入りを許された際、このアーチの下をくぐると、車内がざわついた。罪悪感を抱いた大沼さんが「自分も加害者じゃないのか」という思いにかられたと書いた。15年にアーチが撤去された後も、保存を求め続け、昨年開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」に「遺構」として展示が決まったことを「光と影 伝えるアーチ」と報じた。

原発の「負の側面」に焦点をあてた5回連載の一環だった。双葉町には10年後も今も住民が1人も帰還できていない。伝統的に原発支持色の強かった読売新聞の論調が今後、どう変化するのか注視したい。
高橋弘司(横浜国立大学准教授、ジャーナリスト)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
posted by JCJ at 02:00 | 福島第一原発事故 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする