2021年05月28日

【おすすめ本】金智英『隣の国のことばですもの 茨木のり子と韓国』─日韓の真の対話へ詩を通して架ける橋=菅原正伯

 茨木のり子(1926〜2006年)は、戦後 日本を代表する女性詩人の1人だが、50歳になってから翻然としてハングルを学び始め、韓国現代詩の「編訳」をてがけ、日本への紹介に力を尽くすようになる。
 本書は、日本文学を専攻する気鋭の韓国人女性研究者が、未開拓だった茨木の分野に新しい光をあてた意欲作だ。
 著者は、詩を通じて日韓の橋渡しを積極的に果たすに至る茨木の道程を初期の作品にも遡りながら解き明かす。茨木は軍国少女だった反省から、何にも「倚りかからず」、本当の自分を生きようと決めたが、著者は茨木の詩の特徴である「対話的要素」が、自己との対話の深化とともに、読者への強いメッセージとなる過程を丁寧にたどる。

 戦争に起因する社会問題や民族問題を批判的に取り入れた作品が、黒人兵、在日朝鮮高校生、田中正造などに触れて登場する。「他者」との出会いと「対話」が韓国への 関心を熟成させていく。
 本書の眼目は、茨木が翻訳・編集した『韓国現代詩選』の分析である。 12人の韓国現代詩人の作品62編を、茨木がどんな基準で選定したかが明かされ、茨木の翻訳が大胆な省略や原詩の内容の改変も含め「思想性確かな詩が、日本語の語感で、分かりやすく描かれること」を何よりも優先したことを解明している。
 これは日韓両語に精通した著者にして初めてなしえたことだが、茨木は翻訳作業を通して「国家や民族を超えた真の対話を目指した」との著者の結論を、泉下の詩人にぜひ伝えたいと思った。(筑摩書房2200円)
                           
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posted by JCJ at 02:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする