2021年06月04日

【おすすめ本】柳広司『アンブレイカブル』─弾圧に抗す4人の「敗れざる者たち」=藤田廣登(治安維持法国培同盟)

 本書は、治安維持法犠牲者に焦点があてられた稀有なミステリー仕立ての小説である。
 「稀有な」というのは 小説が苦手の私にも、松本清張以来だという思いがよぎる上に、主人公の四人すべてが著名な実在者だという点にある。全編に弾圧する「内務省のクロサキ」が登場する。

 第一話の主人公は小林多喜二。「蟹工船」取材の対象にクロサキに操られるスパイを絡ませるミステリーだが、私は職場の人たちに愛される多喜二の切り取り方、人物像の精確な筆致に、多喜二関連の一次資料をよく読み込んでいる著者の執筆姿勢に感銘する。
 第二話は川柳人の鶴彬。ずばり17文字で権力と軍隊組織に立ち向かった反戦川柳の旗手だ。
 第三話は中央公論社の編集者・吉田喜太郎。言論統制の戦時色強まる時代、カナトクこと神奈川県特高が動き出し、捕らえられ拷問により絶命。横浜事件に材を取り戦争末期、動物園の猛獣や象の虐殺にダブらせる。
 第四話は哲学者の三木清。共産党員を一晩かくまった罪で豊多摩刑務所に。看守の悪意で疥癬毛布を着せられ、敗戦直後の九月下旬獄死した。

 本書の全編を通して、民主主義と思想・信条を根こそぎ葬った「者」たちの邪悪な意図が、炙りだされる。著者は、ひとたび悪法通れば必ず暴走すると、警鐘を鳴らす。
 戦後生まれの著者に、絶対的権力をもった天皇制にまで、視点を伸ばせと求めるのは過重かもしれぬが、「敗れざる者たち」の続編を希うのは私だけではないだろう。(KADOKAWA1800円)
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posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする