2021年06月14日

【裁判】行政も司法も自衛隊に忖度 おおすみ事故 民間生存乗客の証言無視=沢田正

                        
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自衛艦と釣り船衝突事故をめぐる広島地裁判決について先月号に続き、取り上げたい。
 事故は2014年1月15日朝発生、広島県沖の瀬戸内海で海上自衛隊の大型輸送艦「おおすみ」(8900d、178b、写真下)と釣り船「とびうお」(5d未満、7.6b、写真上)が衝突、転覆した釣り船の船長ら2人が死亡した。 
 事故を調査した国交省運輸安全委員会は翌15年1月、釣り船が事故直前に右転し、おおすみが避けきれず衝突したとする船舶事故調査報告書をまとめ、この後右転原因説が捜査などの基調となった。船の生存乗客2人はともに、おおすみが後方から接近してきて衝突したと証言、右転を否定したが、安全委は衝突現場から1.3`離れた島の目撃者やおおすみ乗員の供述を右転の根拠とした。
 事故ではおおすみの艦長と航海長、釣り船の船長の3人が業務上往来 危険容疑などで書類送検されたが、広島地検は12月、釣り船が1分前に右転したのが衝突の原因として艦長ら2人を不起訴、釣り船船長は死亡で不起訴とした。検察審査会も不起訴相当と議決。
遺族や被害者らは16年5月、真相を究明し、責任を追及する最後の手段として国家賠償請求訴訟に踏み切った。
                     
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 裁判で、防衛省の艦船事故調査報告書全文やおおすみのレーダー映像、艦橋の音声記録や乗員の供述などが初めて開示された。釣り船の航跡記録は水没で失われ、おおすみのレーダーも衝突約4分前から釣り船をとらえておらず、右転を裏付ける記録はなかった。
原告側は釣り船の右転を否定、おおすみが後方から戦闘態勢の高速で釣り船に接近し、針路が交差する態勢になったのに回避義務を怠ったのが衝突の主因と主張。接近した2船の相互作用で釣り船の船首がおおすみ側に吸引されて衝突した後、おおすみの操艦ミスで船尾と再衝突し転覆したと訴えた。
国・海自側は、釣り船がそのまま進めばおおすみの前を通過できたのに衝突直前におおすみ側に右転したため衝突したので、おおすみに回避義務はないと主張した。

 今年3月23日の判決は、両船の航跡を延長すると釣り船が右転しない限り衝突しないと認定、艦長ら乗員の証言とも合うとして衝突30秒前に釣り船が右転したと結論付けた。釣り船生存乗客の証言は無視された。ずさんな認定とのそしりを免れないだろう。
 見通しのよい海上で起きた自衛艦と民間船の衝突事故で、運輸安全委、防衛省、海保、検察、裁判所がそろって、直接証拠もなく、民間側の証言を無視した上で一方的に民間側に非があり、自衛艦に何の責任もないという判断をした。行政も司法も自衛隊に忖度していると危惧するのは筆者だけだろうか。
沢田正(広島支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年5月25日号
 
 
posted by JCJ at 01:00 | 裁判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする