2021年06月23日

【リレー時評】飲んでみる?汚染水=中村梧郎

 4月13日、「飲んでもなんてことない」と麻生副総理が記者団に言った。福島原発の汚染水を、である。
その日午前の閣議で海に流すと政府は決めた。その後の発言である。
 1959年12月、「濾過した排水は飲める」と言ったチッソ水俣・工場長の姿を思い出す。水俣病患者たちの前で彼は一気に飲んだ。後で発覚したのだが、工場排水のコップは職員が巧みに水道水のコップと取り替えていたのであった。
 福島原発で溶け落ちたウランなどの金属デブリは今も炉内にある。そこに流れ込む地下水がデブリに触れて放射性物質まみれの汚染水となる。1日に140d。それをALPSで濾過するのだがトリチウムは除去できない。それを真水で薄めてしまえば「飲めるぐらい」安全だというのである。でも汚染の総量は変わらない。
 これは飲めるはずがない。トリチウム以外にも除去しきれないセシウムやストロンチウム、炭素、ヨウ素などの核種が残る。そのことは2018年に共同通信が報じている。
 政府は「通常の原発でも排水にトリチウムはあり、それを海に出しているから問題はない」との解説をつけた。だがこれも騙しの手口だ。原発排水には事故水のように12種もの危険な核種の混入はない。この二つを同列に置いたところに嘘がある。
 海でつながる近隣諸国、韓国も中国もこの点を衝く。中国政府のスポークスマンは皮肉たっぷりに反論した。「では飲んでみていただきたい」…。
 事故と汚染に関して平然と嘘をつく先例がある。安倍晋三氏によるオリ・パラ招致のための「アンダーコントロール」発言である。汚染水は原発面前の、堤防のある海に出しているのだから安全だと。

 復興庁は4月、トリチウムの「ゆるキャラ」をHPに登場させた。「健康への影響はない」という説明も付いた。だが批判の嵐で削除となった。
 水だけではない。地上の汚染も未解決なのに人体の汚染限度を20倍に変えて安全とし、避難民は戻れという。老朽原発の再稼働を含め、国民がいかに危険に曝されようが意に介さない姿勢が貫かれる。
  汚染は魚介に濃縮される。菅政権は苦しむ漁業者の叫びを蹴飛ばした。被害者は漁民だけではない。魚好きの人間全体の問題なのだ。日本の農・水産物の輸入規制は今も米国以下15の国で続いている。
  もと米GEの原発技術者佐藤暁氏は「周りを掘って地下水を止め、デブリ取り出しは先送り、事故炉を『乾いた島』にする」構想を発表(5月2日東京)した。汚染水を出さない策である。国連の専門家も「汚染の海洋放出は人権侵害」との声明を出した。
 政府は風評被害を防ぐと言う。だが風評は嘘への不信が生みだすものだ。では風評を回避する特効薬はあるのか。
 今こそ出番である。閣僚のどなたかが汚染水をコップで「飲んで見せる」のがいちばん効く。ただし、決して水道水と取り替えるようなことをしてはいけない。
 中村梧郎
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年5月25日号


posted by JCJ at 01:00 | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする