2021年07月06日

【新型コロナ禍】自衛隊接種センターシステム欠陥報道 正当な取材活動への非難 政府・読売・産経一体=臺宏士 

  菅義偉首相の肝いりで設けられた「自衛隊大規模接種センター」(東京)で行う新型コロナウイルスワクチン接種のネット予約をめぐり、地方自治体が送付する接種券に記載された市区町村コードや接種券番号と異なる架空の番号でも予約が完了となる仕様であることが報道で発覚した。朝日新聞出版のニュースサイト「AERA dot.」(5月17日「予約システムに重大欠陥」)と毎日新聞(18日朝刊「防衛省『善意頼み』」)は、記者が実際に予約確認したうえで報じた(予約はキャンセルした)。

 自由のない国か
 閣僚からは「面白半分に予約を取って、65歳以上の方の予約の邪魔をし、それを誇っているかのような報道」(河野太郎行政改革担当相・前防衛相)、「ワクチンそのものが無駄になりかねない悪質な行為で、極めて遺憾」(岸信夫防衛相)と報道に批判の矛先を向ける発言が相次いだ。
 読売新聞や産経新聞も取材手法を問題視した社説を掲載し、政府の擁護に回った。読売は「適切な取材方法とは言えまい。報道機関は責任を自覚する必要がある」(25日)、産経は「憲法が定めた報道や取材の自由の範囲を明らかに逸脱している。不正アクセスそのものが問題であり、報道目的だから許されるとの考えなら、それは思い上がり」(20日)と非難した。取材や報道の自由のないどこかの国の報道機関のような言い分だ。
 朝日新聞出版は19日に「真偽を確かめるために必要不可欠な確認行為であり、政府の施策を検証することは報道機関の使命であり、記事は極めて公益性の高いもの」との見解を出し、毎日も19日朝刊で「放置することで接種に影響が出る恐れもあり、公益性の高さから報道する必要があると判断。架空の予約をしないよう呼び掛ける防衛省のコメントを載せ、紙面でも架空予約防止を呼び掛けている」と説明。朝日社説(25日)も「記事には公益性があり、抗議は筋違いだ」と反論した。
 
潜入取材は普通
 ネット予約システムの不備を確認するため架空の人物として身分や目的を偽った今回のような潜入取材は珍しくはない。
 古くは、ルポライターの鎌田慧氏が大手自動車メーカーの工場で期間工として働いて体験した過酷な労働環境を告発し、大きな支持を得た。福島第一原発事故で敷地内での取材が許可されたのは事故から半年以上も後だ。その間、劣悪な労働実態が週刊誌などで暴かれたのは、フリーライターらが作業員の身分で取材に入ったからだった。
 政治家や役人は都合が悪くなると記者を避けるように病院に逃げ込むのが常とう手段になっている。そうした場所には家族や看護師を装って接触を試みる取材も従来から行なわれてきた。
 政府・読売・産経と朝日・毎日が同じように対立した問題に特定秘密保護法の是非がある。国の安全保障にかかわる重要な情報を漏らした公務員らに厳罰を科す法律だが、情報を入手した記者も処罰の恐れがあることから大きな議論となった。

 反自衛隊を規制
 政府は「通常の取材は処罰されない」「西山事件に匹敵する行為」と繰り返すのみで審議は深まらなかったが、過去には自衛隊の取材観を示す好例がある。07年6月に陸上自衛隊の情報保全隊が自衛隊法施行令の訓令に基づき、イラク派遣に国民が異議を唱える行為を「反自衛隊活動」として情報収集活動を行っていたことが発覚した。朝日記者が基地周辺で隊員に感想を求める行為も同様の活動とされた。市民が起こした損害賠償訴訟の控訴審で、元情報保全隊長は広報を通さない取材について「場合によっては、取り上げることがあると認識している」と証言したが、記者を狙い撃ちにした違法な解釈だ。
 「前」と「現」の防衛相にしてみれば、同省発注のシステムに身分を偽って入り込むなど許しがたい取材であろうし、読売や産経も同じ立場だろう。「社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為」。西山事件の最高裁決定(78年)に照らしても、今回の確認は、正当な取材行為だ。政府・読売・産経が一体となった理不尽な非難こそ国民の生命を危険にさらしかねない。
 臺宏士(ライター)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年6月25日号


  
posted by JCJ at 01:00 | 新型コロナ禍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする