2021年07月15日

【おすすめ本】白取千夏雄『「ガロ」に人生を捧げた男 全身編集者の告白』─長井勝一氏との出会いから休刊までの壮絶な編集者魂=鈴木 耕(編集者)

雑誌「ガロ」といえば 1970〜80年代に、知らぬ者なしと言われた伝説の漫画誌である。実は私も「ガロ」には個人的 な思い出がある。
 77年、当時「ガロ」編集長であった南伸坊さんに依頼され、小説を掲載してしまったのである。まったく若気の至り青春というのは恥知らずだ。今も手許に1冊(6月号)だけ残っているが、恥ずかしいからタイトルは記さない。
 そんな因縁のある雑誌に、生涯を捧げた男の自伝というのだから、読まずにはいられない。そしてこれがまた、期待にたがわぬ波乱万丈、壮絶な自伝なのだ。

 私がつき合っていた南さんなどの時代(70年代)は終わり、著者・白取千夏雄が活躍したのは、80年代に入ってからだった。だから私は直接には著者を知らない。
 しかし、本書からはサブカルチャーの旗手「ガロ」の雰囲気は、溢れん ばかりに伝わってくる。「ガロ」と言えば長井勝一さんである。創刊者にして伝説の編集長、むろん社長でもあった。その長井さんとの出会いからどっぷりと編集の道に浸り込んでいく著者の軌跡は、「ガロ」後期の歴史そのものだ。
 伝説の漫画誌とはいいながら、内情は貧乏所帯。編集部の雑駁な面白さや貧乏話も活写される。だが後半に至って筆致は不穏な様相を示す。本人の慢性白血病との闘い、それ以上に切ない妻(やまだ紫=漫画家)の病い。
 さらに追い撃ちをかけるのが「ガロ」休刊の裏事情。今やネット右翼化した版元の分裂騒動。えっ、そうなの? と首を傾げる部分もあるが、著者が夭逝してしまった今となっては、真偽を確かめる術もない。それにしても凄絶な自伝だ。(興陽館1300円)
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posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする