2021年08月24日

【緑陰図書ー私のおすすめ】<東京五輪>と「言論の自由」=後藤逸郎(フリー記者)

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 日本政府は無観客のカードを切って、東京五輪・パラリンピックの強行開催へと突き進んだ。
 政府を問い糺すべきメディア、特に大会スポンサーとなった新聞大手紙は、開催自体の是非について、ついに国民的議論を呼び起こさずに来た。
 信濃毎日新聞が開催中止の論説を張るまで、大手紙は海外の批判記事を引用するなど、自らの言説で東京五輪への旗幟を鮮明にすることから逃げ続けた。報道機関の根幹である「経営と編集の分離」は崩壊していることは明白だ。
 本多勝一『職業としてのジャーナリスト』(朝 日文庫)は、ベトナム戦 争反対を唱えた北海道新聞の社説の「正論」を評 価するが、しかし地元の漁業問題には沈黙する姿勢を批判している。また信濃毎日が当時、林道建設の推進報道をしていた事実も紹介し、政治権力や経済界と新聞社の距離が、報道機関の「言論の 自由」を規定する構図を指摘した。
 北海道新聞の東京五輪を巡る社説も、ベトナム戦争時の鋭さがない。信濃毎日は長野冬季五輪でも同じことを主張したのか。同書が示した問題は現在に続いている。

 西村肇・岡本達明『水俣病の科学』(日本評論社)は、チッソが垂れ流した有機水銀による中毒メカニズムを解明した好著。
 共著者の西村肇・東大名誉教授は助教授時代、公害研究を咎められ他大学転出の危機に会い、研究を中断。退官後に再開した研究を同書に纏めた。西村氏も「言論・学問の 自由」に直面した。
 取材で面談した西村氏から「自由な活動は財政的に自立してから」と諭されたのを覚えている。
 その助言に抗し新聞社を辞めて出したのが拙著『オリンピック・マネー』(文春新書)。国際オリ ンピック委員会が神聖な組織でなく、興行主に過ぎないと指摘する内容 で、今や共感する人は多いと思うが、在職中には出版できなかった。「言 論の自由」を守るのは誰か他人ではなく、自分自身の問題と実感した。
posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする