2021年08月28日

【おすすめ本】角南圭祐『ヘイトスピーチと対抗報道』―差別を断罪しないメディアの弱さ 自省を込め現場から問う=石橋 学(神奈川新聞)

 報道に携わる者にとって必読の書である。ジャーナリズムはなぜ差別と闘わなければならないのか、そのために何をなすべきであるかが、ここに記されている。
 著者は共同通信の記者で、へイトの現場で顔を合わせてきた私にとっては、共に闘ってきた同志である。
 差別を見過ごし、偏見や差別を口にしてきた過去がある。「だからこそ 『上から目線』ではなく記者として何をして、何ができなかったかを自省しながら、現状と課題をまとめたい」という率直な筆は、私が知る真っすぐ疑問に挑戦していく角南記者の姿そのもの。だからこそ説得力がある。
 マジョリティーが差別の問題に取り組むには、ある種の「恐れ」がつき まとう。自らの特権性に無自覚であるがゆえ、言葉の使い方一つにも思いの至らなさ、傲慢さが投影してしまう。
 マイノリティーの被害の深さやヘイトデモの現場で抗議の声を上げる市民に触れ、中立を装うメディアの欺瞞に気付き、変化していった筆者の足取りは、私が経験した変化でもあり、メディアは変わり得るという希望を表している。
 差別を断罪しないメディアの弱さは、侵略の過去とその根源にある差別の歴史を顧みない日本社会にあって顕著だ。「差 別を禁止する法律をつくり、ヘイト包囲網を完成させたい。その日のために今ある差別に反対する声を共に上げていこう」との結びは、日韓の戦後補償問題を追い続けてきた著者ゆえに辿り着いた地平であるに違いない。
 戦争のお先棒を担いだ反省に立つジャーナリズムは傍観者たり得ず、差別をなくす主体として、その先陣を切らねばならないと、覚悟の筆が教えてくれる。(集英社新書880円)
『ヘイトスピーチと対抗報道』.jpg
posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする