8月9日の長崎市平和祈念式典で、田上富久市長は、日本政府に核兵器禁止条約への署名・批准を求める平和宣言を読み上げた。平和宣言で条約への参加を訴えたのは、2017年に条約が国連で採択されてから5年連続だ。さらに、今年は条約が発効し来年3月に締約国会議が開かれることになったため、「オブザーバーとして参加し、条約を育てるための道を探ってください」と、一歩でも前進して欲しいと呼びかけた。
しかし、式典に出席した菅首相は、挨拶で、核廃絶を抽象的に述べるだけで、核兵器禁止条約には一言も触れなかった。
式典後、被爆者団体は菅首相に会い、条約への参加を直接訴えた。これに対して、菅首相は、「現実的に核軍縮を前進させる道筋を追求していくことが、より適切だ」と、条約に参加しない立場を繰り返しただけだった。
また、被爆者団体は、広島で黒い雨を浴びた人たちが勝訴したことを受けて、長崎でも同様に被爆者と認めて欲しいと訴えている被爆体験者も救済するよう訴えた。しかし、この問題でも、菅首相は、「長崎では、訴訟が継続中ですので、まずは、その行方を注視していきたい」と述べただけだった。
被爆者団体の代表の1人、川野浩一さんは、「もう少し前向きな回答があると考えていた。頭から要望をシャットアウトしていて、被爆地の思いを受け止めようという誠
意がない」と怒った。
核廃絶も被爆者援護もゼロ回答の結果、注目されたのは菅首相が式典に1分遅刻したことだけになってしまった。
西郷 格
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年8月25日号