菅政権の内実に迫るドキュメンタリー映画「パンケーキを毒見する」とタイアップし、「政治主導」の名の下に進められた安倍・菅政権の異常な官邸主導政治の内実を明らかにする一冊だ。
著者は、安倍晋三氏を「能力の低いペテン師兼パフォーマー」、菅義偉氏を「頑固で攻撃的、かつ『改革する自分』に酔う裏方番頭」と評している。しかし「官邸主導」 の政治を実際に動かしているのは「官邸官僚」だと指摘する。
その中心は、安倍首相の政務秘書官として君臨した今井尚哉氏ら経済産業省出身の官僚だ。高度成長時代に「日本株式会社」の参謀本部といわれた旧通商産業省。その仕事がないにもかかわらず「日の丸プロジェクト」で失敗を重ねてきた。
しかし、「意味はないが大したカネをかけずに立派に見せる政策を作るプロばかり」がそろっているという「経産省的な性格」が「国民への人気取りの政策、話題に上る政策を常に必要とした」安倍政権とまさに合致して、「暴走」を重ねていった状況を描く。
そうした結果が、労働者の平均賃金は下がり、「成長戦略」も不発で産業競争力が劣化した日本の姿だ。世界に取り残される状況を指摘できない、視野の狭い日本メディアの共犯性も厳しく指摘している。
後半には、「7年8カ 月の安倍政権で日本経済は復活した」という言説を覆す「斜陽日本」を示すデータが次々と示される。
筆者が再建を期待するのは河野太郎氏。その是非には議論があるが、日本社会の危機を共有し、乗り越えるための処方箋になっている。(角川新書1000円)