2021年09月25日

【映画の鏡】国策作品から戦争の真実を追う『いまは むかし―父・ジャワ・幻のフィルム』=鈴木賀津彦

 映画人たちは戦争をどのように体験したのか。そしてメディアが戦争にどういう役割を果たしたのか。日本軍が占領したインドネシア・ジャワで、大東亜共栄圏をPRするなどの国策映画を創った日本映画社ジャカルタ支社の伊勢長之助(1912〜73)の生き方を、ドキュメンタリー映像作家である長男の伊勢真一が30年程前から取材し、戦争の真実と向き合い、父の想いを解き明かしていく。
  長之助は「文化戦線」の一員としてインドネシアに派遣され、「隣組」「東亜のよい子供」「防衛義勇軍」などのニュース映画を精力的に製作した。敗戦後にフィルムはオランダに接収され、約130本の作品が良好な状態で保管されていることが分かり、真一はオランダ視聴覚研究所を訪ねる旅に。保管フィルムの説明を学芸員がする場面では、歴史資料の保存の重要性を理解でき、アーカイブに対する日本の認識の低さを痛感させられる。
  戦後の長之助は、全国各地の映画館で上映された約20分の「ニュース特報‼極東軍事裁判」を製作、ラストシーンには憲法9条の朗読を入れ、平和への思いを込めている。その後、多数の記録映画を手掛け、「編集の神様」と呼ばれた長之助だが、真一は「語られなかった声に、耳を澄ませてみたい」と、昨年からのコロナ禍の中で「昔の物語を今へと掘り起こして」編集作業を進めた。「家族の物語」であり、30年がかりの作品だという。
  9月4日〜24日、新宿K’s cinemaで公開。連日ゲストを招いたトークの他、11日〜17日は長之助の代表作と関連作品を特集上映する。「世紀の判決」「森と人の対話」「カラコルム」「新しい製鉄所」など。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年8月25日号
posted by JCJ at 01:00 | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする