五輪最優先のNHKは八月六日、原爆に関する新作特番を放送しなかったが、その後の特集番組は、テーマの多彩さ、丹念な取材、問題意識の今日性など、非常に充実していた(以下、日付はすべて八月)。
新資料の活用 ―七日のETV特集『日本の原爆開発〜未公開書簡が明かす仁科芳雄の軌跡〜』は、仁科の書簡から原子力エネルギー利用計画が核爆弾開発に変化していった経緯を描き、科学と軍事の関係を問うた。一四日のBS1スペシャル『ヒトラーに傾倒した男〜A級戦犯・大島浩の告白〜』は、大島の生前のインタビュー録音から、日独伊三国同盟に至る「ドイツ追随」の歩みをたどった。
今日的な問題意識―一四日のNHKスペシャル『銃後の女たち〜戦争にのめり込んだ“普通の人々”』は、大日本国防婦人会を素材に、社会貢献を望んだ女性たちが戦争に飲み込まれた怖さを描いた。近年のジェンダー論を反映した企画だった。
市井の証言者への聞き取り ―九日のBS1スペシャル『マルレ 〜“特攻艇”隊員たちの戦争〜』は、特攻艇の元隊員の証言や隊員が個人でまとめた戦史から、彼らの凄まじい体験を伝えた。一四日のETV特集『ひまわりの子どもたち〜長崎・戦争孤児の記憶〜』は、長崎の戦争孤児収容施設での孤児たちの生活と、差別と偏見にさらされた就職後の人生に光を当てた。二八日のETV特集『“玉砕”の島を生きて〜テニアン島 日本人移民の記録〜』は、一九四四年夏の米軍侵攻の際の集団自決の証言。担当ディレクターは生存者を二十年以上取材、母や姉が幼子を手にかけた壮絶な体験など、集団自決の実相を明らかにした。
見過ごされてきたテーマ―二一日のETV特集『戦火のホトトギス』は、俳句雑誌「ホトトギス」への戦地からの投句に着目。胸に迫る兵士たちの句を紹介しただけでなく、俳号などを手がかりに作者を突き止め、縁者に取材した。膨大な投句を読みこんだ制作者の努力に脱帽。二二日のBS1スペシャル『感染症に斃れた日本軍兵士』は、前編でマラリア、デング熱などへの日米双方の対策を比較。後編では、蘭印のバンドンで一九四四年、労務者四百人近くが日本によるワクチン接種後に破傷風の症状で亡くなった大量死事件から、日本軍の人体実験という歴史の闇に光を当てた。
どの番組も、証言者や史料にしっかり向き合い、当時と現在とに通底する問題を照射する点で、ジャーナリズム性に溢れていた。
諸川麻衣
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年9月25日号