「沖縄タイムス」記者 として沖縄戦、沖縄戦後史を長年取材してきた著者は2010年、1年間休職し、大阪大学大学院の門を叩いた。本書は18年に博士号を取得した論文を再構成した労作だ。
沖縄戦から米軍占領下で生き延びた命をつなぎ「復興」を目指した市井の人々を主人公として描く。 例えば「ミシン業」の女性たち。戦争で夫を失ったり、米軍基地に土地を奪われたりした人々が生活の糧とした。手内職の「既製品」を立ち売りする商売は「新天地市場」へと結実した。
故郷を那覇軍港に接収された那覇市「垣花」の人々の軌跡も辿る。軍労働に伴う移動を繰り返した結果、離散。
一方、那覇の「復興」の陰で旧真和志村(1957年那覇市編入)の農村復興の希望は潰えた。米軍の占領施策が、全てに優先される時代とはいえ、「抗うべき相手は占 領下で同様に苦しむ沖縄の人々だった」のだ。
しかし56年、人々の怒りは「島ぐるみ闘争」として爆発した。著者は米軍住宅で働いた女性たちの「気持ちまでは取られない」という言葉に象徴される、人々の気持ちが島ぐるみ闘争へつながったのだと述べる。
沖縄戦、沖縄戦後史の体験者や不条理に泣く人々の声に耳を傾けてきた著者だからこそ、女性のつぶやきを聞き留め、主流の歴史には表出してこない無数の「異音」を 聞きわけたのだろう。
来年は復帰50年という節目。復帰とは何だったのか。いまを考えるには沖縄戦後史を知ることの大事さを、改めて教えられた。沖縄からの「異音」は聞こえるか。私たちが問われている。(有志舎2600円)