アメリカでSNSが混乱している。 ツイッターが右寄り論調に偏り、フェイスブックがベトナム政府の言論統制を受け入れ、その隙を縫って前大統領トランプが新たなソーシャルメディアを立ち上げようとしている。
TWは右寄り?
「ツイッター」社は自社の研究で、アルゴリズム(問題解決手法)が「右寄りの政党や報道機関のツイートをより増幅しがちだと分かった」ことをあきらかにした(10/21)。
ツイッターが調査したのはカナダ、フランス、ドイツ、日本、スペイン、イギリス、アメリカの7カ国。政党のツイートやユーザーが共有するニュース・メディアコンテンツについて、2020年4月1日〜8月15日の間のツイートを、アルゴリズムに則って表示されるフィードと、時系列順に表示されるフィードを比較してどちらのフィードが増幅されるか調べた。
その結果調査チームの責任者ルマン・チャウダリー氏は次のような現象がツイッター上で起きていることが明らかになったと述べた。
「7カ国のうちで、政治的に右寄りのツイートが、左寄りの政治家のものより増幅されていたと分かった。原因については改めて調査するが、右寄りの政治家やニュースメディアのほうが増幅の度合いが高かった。ユーザーにアプローチする際の『戦略の度合い』の違いが 増幅作用を強めていることが見られる」と説明している。
新SNS発足へ
トランプ前大統領が、新しいソーシャルメディアを立ち上げると発表したことがアメリカで話題になっている(10/20)。
新しいSNSは「ツゥルース(真実)・ソーシャル」と名付けられ11月に招待者を対象にした試験運用をしたのち、22年第一四半期に全国展開を予定している。今年1月、トランプ支持者らによる連邦議会襲撃の後、トランプ氏のツイッターやフェイスブックなど凍結されたままとなっている。
トランプ氏の新会社Trump Media and Technology Group(TMTG)を通じて「タリバンがツイッターで存在感を見せているのに、あなたの大好きな大統領が口を封じられているのに我慢ならない」との声明を出した。中間選挙に備えての行動とみられる。
FB検閲受け入れ
米有力紙ワシントン・ポスト紙は、フェイスブックがベトナム政府の要請で、政府に批判的な投稿の検閲の強化を受け入れた、と報道した。これは25日、ワシントン・ポスト紙が匿名を条件に取材した3人の関係者の取材で得た情報による。
フェイスブックは36億人の利用者を持っているが、これまでにも、差別、暴力、検閲に十分には対応してこなかった、と指摘されている。ワシントン・ポストはフェイスブックが日本円でおよそ1100億円を超えるとみられるベトナムのSNS市場を重視し、検閲を受け入れたとみられる。
児童悪影響放置
「フェイスブック」の元社員フランシス・ホーゲン(写真)が米上院商業委員会で証言を求められた(10/5)。彼女はフェイスブックの内部調査で「フェイスブックやインスタグラム上での児童保護などに関しての若いユーザー、児童などSNS上で、ネガティブな情報を受けっとっている」という事態を、放置しており、安全を犠牲にし、対応したヘイトスピーチは3%〜5%に過ぎない。自社の利益を優先していたと批判した
米CBSテレビ「60ミニッツ」の報道では「フェイスブックが投資家に虚偽の説明をし、さらに重要情報の開示を回避した」と批判する番組を報道した。
規制新段階に入る
一連のハイテク企業に対しバイデン政権は監視を強化している。15日、米独占禁止当局である連邦取引委員会(FCT)委員長に指名したコロンビア大学准教授リナ・カーン氏
は、反トラスト法の強化を唱える学者。米グーグルなど「GAFA」といわれる巨大IT企業の監視を強めるものとみられる。上院では民主、共和両党が賛同し賛成多数で承認を得た。
今後バイデン政権は「プライバシーの保護」などを中心にして、IT大企業への規制を一層強化するものとみられる。
これまでも巨大IT企業はコロナ禍のもとでデジタル化の恩恵を受け、成長を遂げてきたが、成長を持続させることが難しい局面にはいった。特に批判的報道の波を直接受けているフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、「仮想空間事業(メタバース)の充実」で乗り越えようとしている。
しかし新たな投資で21年度の営業利益が約100億ドル(1.1兆円)減るとみられている。
これまで、快進撃を続け、世界中の政府を困惑させてきた一連の巨大IT 企業に転機が訪れたようだ。
補遺:フェイスブックは10/28日付けで社名を「メタバース」と変更することを発表した。傘下にインスタグラム、ウオッツアップなどを持っている。
隅井孝雄(ジャーナリスト)