2021年11月16日

【21年度JCJ賞受賞者スピーチ】大賞『ルポ入管』行政の透明性の向上を 共同通信記者・平野雄吾さん

hirano.jpeg
    平野さんはエルサレム支局長のためビデオメッセージによるスピーチだった

 難民申請者や在留資格のない外国人を無期限に拘束する入管施設を私が初めて訪れたのは、2017年秋でした。その年の春までカイロ支局で勤務し、ヨーロッパで難民の取材をしていたため帰国後、日本では難民はどういう暮らしをしているのだろうと思ったのが取材のきっかけでした。茨城県牛久市の東日本入国管理センターの面会室で、約2年半で体重が80`から35`に減ったと話す、車椅子姿のパキスタン人に会い、ここで何か大変なことが起きていると直感した。それ以降、牛久入管や品川の 東京入管、時には大阪入管や長崎県の大村入国管理センターにも足を運びました。
 そして職員による暴力、暴言、監禁、懲罰、医療放置など信じがたい実態が収容者の話から出てきました。約2年間の取材・執筆過程で強く感じたのは入管施設の透明性の欠如という問題でした。
 図らずも、私が入管問題に没頭していた18年から20年の間に社会的に大きな問題となったのは、森友や加計、学術会議の問題でした。これらに共通するのは透明性や公平性の欠如です。多くの国民から反発が生まれたのは透明性や公平性が民主主義社会の基盤であり、これを放置すると基盤が揺らぐと感じたからでしょう。 

 私はこの時、入管当局の対応を思い出しました。取材には保安上の理由で答えない。情報公開ではほぼ黒塗りの文書を開示。外部からの視線をシャットアウトする姿勢が入管問題の根本にあるのは間違いありません。透明性の確保は極めて重要で、国家権力の暴走を防ぐ唯一の手段になり得ると思います。
 名古屋入管でスリランカ人女性のウィシュマさんが亡くなり、入管施設では一体何が起きているのか、多くの日本人が関心を寄せはじめました。今問われているのは、公文書の保存、情報開示、行政を監督する第三者委員会、公務員の市民への公表などで透明性向上のためにどんな方法があるかです。『ルポ入管』がJCJ大賞を頂いたのは、日本ジャーナリスト会議が社会に向けて行政の透明性の向上について議論を深めようと呼びかけるメッセージではないかと私は受け止めています。その議論の一助となるよう記者として今後も努力を続けたいと改めて感じています。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号
posted by JCJ at 01:00 | 21年度JCJ賞受賞者スピーチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする