演歌といえば、こぶしを回す歌謡曲を思い浮かべるが、本来の演歌は明治・大正期に、自由民権運動から生まれた社会風刺の歌のことである。
本書は43歳の著者が絶滅危惧種の演歌を歌う「演歌師」になった半生と、多くの人々との交流を綴った記録である。
著者のストレートな歌声と少年のような愛嬌ある風貌に合わせ、その飾らない人柄が、多くの人を引きつけてきた。沖縄の三線(さんしん)の代用品であるカンカラ三線を手にして約20年。演芸会や酒場、集会で歌い続け、安倍晋三元首相など、不可解な答弁で迷走する政治家を、「ああわからない」「オッペケペー節」などの歌詞をつけ、軽やかに風刺してきた。
プロサッカー選手の夢を諦めた20歳頃、実家の押し入れにあった吉田拓郎のレコードに衝撃を受け、歌手になろうと決意。当初はギターを手に自作曲を歌っていたものの芽が出ない。そんなときフォーク歌手の高田渡から本来の演歌や演歌師の代表格である添田啞蟬坊について教わり、のめり込んだ。
カンカラ三線と出合った話など、読み進めるにつれ、偶然が重ならなければ唯一無二の「カンカラ演歌師」は誕生しなかったことが実感できる。
今は亡き小沢昭一や永六輔らとのエピソードも読みどころの一つ。だがそれ以上に興味深いのが、北海道から沖縄まで全国各地で出会った人々との交流だ。いかに彼が人との縁を大事にしてきたか、よく分かる。
「演歌は庶民の叫び」と語る著者。現在の政局を笑いに変え、さらなる鋭い風刺を生み出すよう期待して止まない。(dZERO1800円)