2021年11月20日
【21年度JCJ賞受賞者スピーチ】大賞「五色(いつついろ)のメビウス」分断とは対極の社会を 信濃毎日新聞報道部次長 牛山健一さん
私たちの報道は、外国人のキャンペーンで始まったわけではありません。新型コロナの影響で苦しんでいる人たち、命の分岐点に立っている人たちの取材をしていく中、外国人が最も歪みの影響を受けていると感じ集中した。なので全くこの問題の専門家でもなく、素人集団で始まった。だからこそ執拗に取材できたのかもしれない。
昨年の夏から秋にかけ二つの大きな出来事があった。一つは浅間山の麓、小諸市のサニーレタス畑で起きた落雷事故。なぜ雷雨の中、農作業を強いられていたのか、死亡した2人は在留期限を超えて滞在していた。それから南牧村の農家で、ベトナム人の元技能実習生と元留学生が傷つけあう傷害事件が起きた。2人は大阪市の会社が国の許可を得ずに派遣した失踪外国人だった。この会社は佐久地方のレタス、白菜の農家に、県外で失踪した技能実習生ら230人を違法に派遣していたことが判明した。若者たちはなぜ元々の職場を逃げ出し、佐久地方に送り込まれたのか疑問は膨んだ。農業だけでなく、建設、製造業、食品加工、介護、私たちの便利な暮らし、手ごろで新鮮な食べ物、高齢者の福祉サービスは外国人労働者の働きなくしてはありない。
新型コロナの影響による出入国制限のため海外渡航しての取材は断念した。でも、ベトナムなどの送り出す派遣会社などの関係者の証言を集め、S N Sやウェブ会議システムを使って現地への取材にも成功し、日本企業・団体への裏金やキックバック、違法な手数料の実態も明らかに。地道な従来型の取材と、ネットも使った若い記者の踏ん張りも闇を暴くことにつながった。
新たな受け入れ制度である特定技能でも、外国人が違法な手数料を支払わされている実態を突き止めた。新型コロナウイルスに感染した外国人住民の苦労、入管法の改悪問題についても早くから取り上げてきた。
「五色(いつついろ)のメビウス」はどういう意味か。五色には多種多様の意味がある。五大陸をイメージし世界の意味を込めた。表が裏になり、裏が表になるメビウスの輪。循環するイメージから無限の可能性も意味する。私たちと世界の関係も同じ、多様な国々をルーツとする人々と一緒に築く社会、分断とは対極の社会を目指したい。少しでも近づけるよう引き続き、掘り下げて伝えていきたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号