2021年11月22日
【21年度JCJ賞受賞者スピーチ】ETV特集「原発事故最悪のシナリオ=v事故の教訓化終わらず NHKディレクター・石原大史さん
JCJ贈賞式にお招きを受けるのは、今回で3度目です。最初は2011年原発事故の年で、ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」がJCJ大賞。2度目は2013年NHKスペシャル「空白の初期被ばく〜消えたヨウ素131を追う〜」がJCJ賞を受賞しました。
今回の番組の企画意図は「原発事故を危機管理の側面から検証したらどうなるか」というもので、そのキーワードになったのが「最悪のシナリオ」でした。通常「最悪のシナリオ」は、事故の初動のタイミングで必要と言われ、事故防止戦略の道具として事前に必要なはずなのに、今回の場合(4つの原子炉が損傷し)事故の最悪のタイミングである3月15日からさらに一週間以上も経って官邸に届きました。「これは変だ」ということで取材を始めました。
「最悪のシナリオ」はアメリカ政府・軍、防衛省・自衛隊、東京電力も、それぞれ別個に作っていて、それぞれが違います。そのこと自体が危機管理が混乱した要因のひとつでした。
制作での苦労はまず第一に、キーパーソンの誰にどうやって話してもらえるか、です。ローラー作戦で仲間たちで一人ひとり口説いていく作業が大変でした。
第二は、これまで公の場で話したことのない内容を「テレビカメラの前で話してください。対話形式で2、3時間話してほしい」と要求したので、嫌がられました。
では、なぜ応じてくれたのか。事故対応した人の多くは「あれで良かったのか」と反問、自己反省を繰り返していました。事故後10年を取材する側とのタイミングが合ったのではないか。幸運で有難いことでした。
第三は、番組にどういうメッセージを込めるかが、最も苦労した点です。あらかじめ、結論やメッセージが決まっていた訳ではなく、取材から見えてきたもので終わろうと決めていましたが、難しかった。最後は「日本人は危機そのものを直視せず、根拠のない楽観論に陥りやすい」などと指摘する元自衛隊統合幕僚幹部や元首相補佐官のインタビューに番組のメッセージを込めました。
私たちの社会が、事故からどういう教訓を引き出し、何を学ぶかは、未だ全然終わっていません。引き続き、番組制作を続けたいと考えています。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号