2021年11月30日

【おすすめ本】北川成史『ミャンマー政変 クーデターの深層を探る』─少数民族への丹念な取材が光るルポ=藤川大樹(「東京新聞」外報部)

今から10年前、ミャンマーは半世紀に及ぶ軍事政権に終わりを告げ、民主化への道を歩き始め た。2015年の総選挙では「建国の英雄」の娘・アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が大勝した。民主 化は必然の流れだと思われた。
 だが、今年2月の国軍クーデターにより、ミャンマーは再び暗い時代に引き戻され、人々がようやく手に入れた自由は奪い去られた。本書では、クーデターの背景や国軍の利権構造、市民らの抵抗運動の軌跡を描く。

 政情は「国軍」対「民主派」という単純な構図では語れない。ミャンマーには、中央政府が認定するだけで135に上る少数民族がいる。独自の歴史と生活を持ち、利害も複雑に絡む。国民的な人気を誇るアウンサンスーチー氏に対する温度差もある。
 著者は社会部畑が長い記者だけに、現場を丹念に歩き、市井の声に耳を傾ける。少数民族地域や難民キャンプにも足繁く通い、人々の本音を引き出している。特に中央政府や国軍も自由に立ち入れない事実上の独立国、ワ自治管区の実情を知らせる報告は見事だ。

 クーデターから8カ月が過ぎた。民主派は少数民族との連携を模索しながら、抵抗運動を続けるものの、国軍の力任せの支配は固まりつつあるように見える。
 人々は再び自由と民主主義を取り戻すことができるのだろうか。著者は「自由の価値を知った以上、理不尽な束縛など到底受け入れられない」と前置きした上で、抵抗運動は「必ず実を結ぶ」と 断言する。(ちくま新書 840円)
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posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする