これはラブレターなのです。去って行ったステキな人へのちょっと淋しい手紙なのです。
著者が「哲さん」と呼ぶ中村哲さんへの愛を込めて、二人の交友を淡々と綴ったのが本書です。
小さな断片の重なりが不世出の医師の生涯を写し出します。アフガニスタンに注いだ哲さんの思いは、あの「用水建設」や「診療所」に象徴され ます。それなのに、哲さんの無念の死。
第一部は哲さんの生き方の「軌跡」です。そして哲さんが起こした「奇跡」、ふたつのキセキ。
私が好きなのは第二部の「哲さんへの手紙」にある「哲さんともう会えない」と題された哀切な文章には、涙腺の弱くない人でも、瞼が熱くなるはずです。ここで著者と哲さんの出会いから交流が語られます。
そこに、著者の亡き夫(藤本敏夫さん)との想い出が重なります。学生運動のリーダーであり、後に生協運動、自然農法に尽力した藤本さんは、2002年、58歳という若さで世を去りました。
藤本さんと哲さんは、たった2歳違いでしたが哲さんもまた2019年、アフガンで凶弾に倒れました。73歳でした。
著者は、藤本さんと哲さんに、共通の「優しいけれど強靭な意志」を感じ取っていたのでしょ う。だから本書は実は哲さんと藤本さんの生き方への、真剣な愛に満ちたラブレターなのです。
二人のかけがえのない人を失った著者は、それでも前を向いてひとりの旅を重ねます。第三部の「哲さんの残した言葉」を携えながら…。心に沁みる一冊です。(合同出版1700円)


