★2021年のノーベル平和賞は2人のジャーナリストに与えられた。一人はフィリッピンのマリア・レッサ女史。彼女はネットメディア「ラップラー」の代表を兼ね、強権的なドゥテルテ政権と闘いながら、取材活動を継続してきた。
★ドゥテルテ大統領が進める過激な「麻薬の取り締まり」は、2016年からの3年間だけで1万2千人から3万人を殺害したと指摘され、<人道に対する罪>への国民的な抗議に発展している。
さらに民間放送への介入・免許停止などに対し、報道の自由を求めるデモが起きている。こうした状況を綿密に報道している彼女への、弾圧も激しくなっている。
★もう一人は、ロシアのドミトリー・ムラトフ氏。彼は独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長で、プーチン政権と対峙し、政府高官の汚職、国家権力による弾圧や人権侵害を告発し闘ってきた。
いまプーチン大統領は、約90の独立系メディアと記者を、スパイ認定扱いにする「外国の代理人」に指定し、当局の監視を強めている。そのためスポンサーが離れ、経営難に陥り、閉鎖に追いやられる事態が相次いでいる。
★10日、オスロで開催の授賞式で、二人は「言論の自由」「報道の自由」が脅かされる現状を訴え、決意を表明した。
レッサ女史は、「いつ自分も拘束されるかわからない脅威にさらされているものの、ジャーナリスト活動はリスクを負うだけの価値ある仕事だ。とりわけSNSメディアでは、事実よりも怒りや憎しみが込められたウソが早く広がりやすい。事実なしには真理に迫れないし、真理なしには信頼は得られない。信頼がなければ民主主義もない」と、訴えた。
★一方、ムラトフ氏は「ロシアではジャーナリズムが暗黒の時代を迎えている。メディアや人権団体などが人民の敵と位置づけられ、ジャーナリストが命を奪われたりしている。我々の使命は事実とウソを区別することだ」と述べ、権力の不正を追及して命を落としたジャーナリストたちに黙とうを捧げた。
★図らずも9日から10日にかけて、「民主主義サミット」が開催されていた。米国バイデン大統領の呼びかけで、110の国や地域の首脳が集まり、中国やロシアなどの専制主義国家から民主主義を守る意義を強調した。
だが米国はどうか、トランプ前大統領の言動や郵便投票の制限など、「民主主義が後退している国」に挙がっている。中国も、にわかに「民主」を叫ぶが、テニス女子選手への対応や新疆ウイグル族への弾圧など、誇れる状況ではない。
★岸田首相も「民主主義サミット」で演説し、「自由が抑圧され人権がじゅうりんされる状況が今もなお続いている」と、「有志国が一致してワンボイスで臨んでいかなければならない」と述べた。
ちょっと待てよ、わが国内はどうか。森友問題で自死した赤木さんの人権は守られたのか、日本の入管で起きたウイシュマさんの死はどうか、さらには学術会議の任命拒否された6人の人権はどうか、まずもって自らが率いる国の現状を変えることから始めよ。(2021/12/12)