2021年12月17日
総選挙SNS発信が力「ヤシノミ作戦」など大きな反響=鈴木賀津彦
ネット上では今回、ユーチューブの番組などで各党の公約の比較や政策を問う市民団体などの動きが活発になり、当事者からの訴えが急速に広がった。候補の選挙戦にも映像がSNSなどで飛び交い変化が見られたが、市民発の発信が各党を動かすほどの力を持ち始めた選挙になったと言えそうだ。有権者側が動画を使って共感を呼び、コミュニケーションを広げたことで、一部とはいえ成果を上げていることに注目したい。
コロナ禍でのリモートワークなどでオンライン会議が当たり前になり、ネットの動画が日常になる中での選挙戦。芸能人がSNSで投票を呼び掛ける活動なども話題になったが、選択的夫婦別姓問題では当事者たちからの「落選運動」が起こるなど盛り上がりを見せた。
共感を呼んだのが「ヤシノミ作戦」と名付けた落選運動で、呼び掛けたのはサイボウズ社長の青野慶久さんら。当事者として訴訟を起こしている青野さんは「選択的夫婦別姓や同性婚など社会の多様性を進めようとしない政治家をヤシの実のように落とそう」とネットで呼び掛けた。与野党の248人をリストアップ、「当選させてはいけない候補者以外に投票しよう」と訴えた。
選挙戦の終盤では、「ヤシノミTV」という討論番組もネット配信し話題に。この取り組みはマスメディアでも取り上げられ、政策を問う他の市民団体のネット番組などからも青野さんへの出演要請が相次ぐなど連携も広がり、選挙結果に一定の影響を与えたようだ。
結果は、同作戦のサイトで「落としたヤシノミ(落選)は84個。落ちたのに復活した(比例復活)のは42個、まったく落ちなかった(当選)のは122個です」と報告している。
この作戦が、選挙の当落にどれほど影響を与えたのかは見えにくいが、分かりやすいのが最高裁判所裁判官の「国民審査」だ。11人全員が新任されたものの、不信任率が高かったのは、6月の判決で夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定を「合憲」と判断した4人。他の7人が6%台なのに、最も高かった深山卓也は7・9%、次いで林道晴7・7%、岡村和美と長嶺安政が7・3%だった。ヤシノミ作戦のほかネット上では、この4人に「×」を付けるよう呼びかける運動が広がっていた。ツイッターなどでも、4人の名前から「長岡村の林は深い」と覚えて×をつけようと運動化した結果が、7%超となったわけだ。(一方で、選択的夫婦別姓に反対する人たちからは「『違憲』の裁判官に×を」というネットのキャンペーンもあった)
これを不信任率が1ポイントほど高くなっただけだと過小評価はできないだろう。形骸化が言われてきた国民審査で大きな変化を起こしたのだ。7月の東京都議選でも、選択的夫婦別姓や同性婚に反対する候補が何人も落選したが、今回の衆院選では「多様性」の流れに対応しない議員に対するインパクトのある働きかけとなった。ヤシノミ作戦のウェブサイトには、これまでの番組などが残され、落ちなかった議員たちも無視することができない存在になっており、今後の国会論戦を変えていく起爆剤となったと受け止めている。
この問題だけでなく、障害者団体などが当事者視点で公開質問状を各党に出して見解を聞き、生活保護や人権問題など個別の政策を問うウェブサイトをつくって、発信していく取り組みなども増えた。
テレビなどの既存マスメディアが選挙期間中になると、各候補を「公平」に扱うために踏み込んだ政策議論をさけている現状の中で、小さな市民団体や個人であっても、自らの関心ごとを各党・各候補者に問い、ネットで発信していく動きはさらに加速していきそうだ。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号