2021年12月23日

揺らぐ日銀の中立性 徐々に資源配分への介入進める=志田義寧

 日銀は年内に気候変動対応を支援するための資金供給オペを始める。地球温暖化への対応はもはや一刻の猶予も許されず、世界が足並みを揃えて対策を強化することに異論はない。しかし、だ。それは中央銀行がすべきことなのか。
 筆者は昨年までロイター通信で記者をしており、日本語ニュースの経済政策報道を統括する立場だった。日銀キャップを務めた経験もある。その取材経験からすれば、新制度は違和感しかない。
 引っ掛かるのはやはり中立性の問題だ。日銀の金融政策を決定する政策委員は選挙で選ばれたわけではない。したがって、資源配分に手を突っ込むような政策は極力避ける必要がある。黒田東彦総裁は7月に日本記者クラブで行った講演で「市場中立性に配慮し、ミクロの資源配分への具体的な関与を避けながら、金融政策面で気候変動への対応を支援する新たなアプローチだ」と強調したが、直接的な関与は避けても、関与することに変わりはない。
 各紙の扱いは
 これは日銀が業界や企業の生殺与奪権を握りかねない重要な問題である。各紙はこの問題をどのように扱ったのか。
 反対姿勢を明確にしたのは朝日新聞と毎日新聞だ。朝日は新制度の骨子を決めた7月会合の結果を伝える記事で、日銀内にも慎重論があることを紹介。翌18日には天声人語で「議論の分かれるような個別政策は、有権者の選んだ政府が担うのがスジである」と新制度に疑問を呈した。24日の社説でも「本来は、国会での議論を経る財政や政策金融に委ねるべき任務のはずだ」と慎重な見方を繰り返している。
 毎日新聞も9月22日の社説で「脱炭素に向けて産業構造の転換を促すのは本来、中央銀行ではなく政府系金融機関の役割だ」と主張した。
 両紙は新制度だけでなく、黒田氏が総裁になって以降の金融政策に対しても、基本、批判的なスタンスを貫いている。
 これに対して、読売新聞と日本経済新聞は比較的前向きに受け止めているようだ。読売は7月20日の社説で「特定分野に肩入れすると、中央銀行の中立性を損ない、民間の経済活動をゆがめる恐れがあることに留意せねばならない」と警鐘を鳴らしつつも「日銀は、政策の趣旨について丁寧に説明を尽くしてほしい」と要請するにとどめた。一方、日経は7月17日の社説で「中銀としての中立性に配慮しつつ、脱炭素に貢献する折衷案といえる」と一定の理解を示している。
このように新制度に対する評価は割れたが、各紙とも日銀が資源配分に介入することに懸念を示している点では一致している。当然だ。
 国民の知らぬ間に
 日本は何を気候変動対策に貢献する事業とみなすのか、タクソノミー(分類)に関する議論も遅れている。そうした中での導入はやはり時期尚早と言わざるを得ない。
日銀のアンケート調査によると、日銀が2%の物価目標を掲げ、金融緩和を行なっていることを知っている人は2割しかいない。残りは「見聞きしたことはあるが、よく知らない」か「見聞きしたことがない」だ。黒田氏が総裁に就任して以降、国民が知らない間にそろりと新領域に踏み出すことが多くなっており、気がかりでならない。
志田義寧
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号

posted by JCJ at 01:00 | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする