2021年12月26日

【今週の風考計】12.26─ソ連崩壊30年と「大祖国戦争」への想い

ソ連が崩壊して30年。1991年12月25日、69年間続いたソ連が解体した。そのきっかけの大きな一つはチェルノブイリ原発事故にある。1986年4月26日に起きた未曾有の大惨事が、あまりにもひどい情報統制によって、その実態が国民から隠され、政権への大きな怒りへと爆発した。
ゴルバチョフら新指導部は、「情報の公開・言論の自由」を保障するグラスノスチを進めつつ、さらなる根本的な改革・ペレストロイカの必要性を痛感し、秋には知識人や勤労者に向けて大胆に立ち上がるよう呼びかけた。
 1988年末には大統領制を導入し、共産党の一党支配を廃止した。米ソ間の冷戦も終結し、1991年7月には戦略兵器削減条約(START)も調印され、世界の緊張緩和が一段と進んだ。
その結果、ソビエト連邦が解体され、緩やかな国家同盟を形成するロシア連邦が成立したのだ。一党独裁を明確に否定した上で自由選挙を行う共和制多党制国家となった。
 ソビエト連邦のゴルバチョフ大統領は辞任し、これまでの国旗「鎌と鎚の赤旗」に代わって、ロシア連邦の「白・青・赤の三色旗」の国旗がクレムリンに揚げられた。

いまロシアはどうなっているか。2000年に就任したプーチン大統領は、ソ連崩壊後の混乱を収束させ、ロシアを再興に導いたと自信満々。チェチェン共和国の独立紛争も、欧米諸国が企てたロシア解体策動であり、その紛争も終結させロシア解体を防いだと自負する。
 だがプーチン大統領は、国内では政敵への弾圧、独立系メディアへの規制など、強権的な政治姿勢を強め国民との対立が激しくなっている。
国際的にもロシアがウクライナ南部クリミアを強制的に編入し、欧米からの強い非難や制裁を呼んでいる。さらにロシアは、NATOが進めるウクライナでの軍事活動への対抗措置を言い分に、国境へロシア軍を集結させ緊張を高めている。

もともとプーチン大統領は、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼び、「千年以上かけて獲得した領土の4割を失った」と憤慨している。
 現にロシア国民の間では約6割が、「ソ連崩壊を後悔している」と答えている。高齢者では、さらに強まる。いまから80年前、ナチ・ドイツと闘い祖国を守った「大祖国戦争」がよみがえるのだろう。特に1942年6月から8カ月に及ぶスターリングラード攻防戦≠ヨの想いは格別だ。

その想いを私たち日本人が理解するに絶好の新刊本がある。逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(ハヤカワ書房)だ。舞台は「大祖国戦争」、主人公はソビエト赤軍の女性狙撃兵18歳。ある日、モスクワ近郊の農村がナチスに襲撃され、彼女一人だけ生き残った。
母や村人を殺したナチスに復讐するため、狙撃兵としての特訓を受け、スターリングラード攻防戦≠フ最前線に出ていく。だが戦いの中で、兵士による女性への性暴力、生死をさまよう戦場の地獄を目の当たりにする。
 そんな女性狙撃兵が、地獄巡りの果てに辿りついた先は何か。
 手に汗握るサスペンス、年末年始の休みに、ぜひ読んでほしい。(2021/12/26)
posted by JCJ at 05:00 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする