総務省やデジタル庁は自治体のデジタル化に躍起だ。同省の「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)推進計画」を地方行政におしつけ2026年3月までに計画を強引に実現させようとしている。対応に迫られる自治体の多くは、IT人材が足りず民間人材の登用に向かっている。民間IT職員が自治体で大きな影響力を持つことになる。
総務省の「自治体DX推進計画」は、計画の推進体制について首長の下に最高情報責任者のCIO(チーフインフォメーションオフィサー)あるいはCDO(チーフデジタルオフィサー)と、手助けするCIO・CDO補佐官を配置するとしている。総務省の調査によると、デジタルシステムを運用できる情報部門の人材は1990年代までは自治体に20〜30人ほどがいた。ところがそれ以降、運用・保守の外注が進んでデジタルに比較的強い人材は数人にまで減少した。外注頼みは加速する一方なので仕様書を書けないほど全体のIT能力は落ちている。
報酬国が負担も
こうした現状では、内部からCIOやCDO、補佐官に就ける人材は決めて少ない。となると多くの自治体はIT企業から人材を登用するしかなく、企業を辞めずに役所の仕事を行う兼業も総務省は認めている。さらに自治体の民間補佐官の登用を容易にするため報酬の約半分を総務省が負担する。
神奈川県の場合、CIOもCDO(県ではデータ統括責任者と呼ぶ)も置いており、どちらも1年ほど前からLINEの執行役員が一人で兼 務。LINEはこれまで県のデジタル化を請け負ってきた。執行役員をCIO兼CDOに任用した理由を黒岩祐治知事は「(これまで)LINEと最新のICT(情報通信技術)を組み合わせた対策を、圧倒的なスピードで導入してきたから」と述べた。
広島県福山市は、CDO1名とCDO統括補佐官1名、CDO補佐官2名はすべてIT企業からの人材だ。
「求人を載せた大手転職サイトを見た応募者から市は選んだ。CDO補佐官に対し市は報酬を支払っていません。企業が全額負担している。見返りを期待してか『無償でいい』と企業が提示したと思います」(自治体関係者)
計画練り上げる
自治体DXに詳しい地方自治問題研究機構主任研究員の久保貴裕さんはこう言う。
「自治体のDX計画を進めるのは首長、最高情報責任者、補佐官です。IT通の首長はあまりいませんので、最高情報責任者と補佐官が計画を練り上げる。首長は彼らが練ったプランに多少修正を加えるかもしれませんが、大枠は同意するでしょう。民間の人材は兼業が一般的です。特別職非常勤職員などの身分で働くが、DX推進計画の実現ためトップダウンで各部門に指示を出す。正規の幹部職員でもないのに強大な権限を行使する」
守秘義務負わず
しかも「守秘義務」「全体の奉仕者」など公務員の服務規程は、非常勤職員には適用されない。
「企業は、わざわざ有能な社員をCIOやCDO、補佐官として自治体に送り出すからには、何らかの見返りを考えるのは自然でしょう。送り出された社員は特命≠帯びていると思います。彼らは公務員の服務規程の適用外ですから、住民の利益よりも所属する企業や業界の利益を優先して自治体のDX政策を策定し実施することはあり得ます。民間からの人材登用により公務の公平性が損なわれる利益相反が生じる可能性があります」(久保さん)
DX推進の波に乗りIT企業が自治体を支配≠オかねない。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号