2021年12月28日
【総選挙報道・新聞】軒並み外れ情勢調査 建設的・批判的な政策論を=徳山義雄
大方の予想に反する衆院選結果を受けて、自民党の岸田文雄氏が特別国会で第101代首相に選出された。衆院選で自民が絶対的安定多数を確保し圧勝、立憲民主党が公示前よりも議席を減らして惨敗。枝野幸男代表は引責辞任した。
菅義偉前政権の新型コロナウイルス対策などをめぐる相次ぐ失態、岸田内閣発足当初からの支持率低迷を考えると、意外な結果だった。だが、投票率が55・93%と戦後3番目の低さも相まって、民意は変化よりも現状維持を選択した。
岸田首相の次の正念場は、来夏の参院選だ。過半数に達しなければ過酷な「ねじれ国会」となり、勝利すれば安倍晋三元首相に次ぐ「独裁的」な権力を手にできる。
世論調査方法
見直す時期に
衆院選の報道各社の選挙情勢調査をみると、野党が優勢で自民は過半数割れの可能性さえあった。しかし、蓋を開けると調査結果は軒並みはずれ、自民は15議席減らしたものの国会を安定的に運営できる絶対的安定多数を獲得、立憲は大幅増が見込まれていたが、14議席減らすというどんでん返しがあった。共産党と手を組んだ野党共闘が裏目にでたのか。
小選挙区では自民の甘利明幹事長(比例復活)が落選し、常勝の石原伸晃元幹事長も落ちた。立憲は政界大物の小沢一郎氏(比例復活)や辻元清美氏が敗れた。一方、日本維新の会が大阪15選挙区のすべてを制し、約4倍の41議席を得て、自民、立憲に次ぐ第3党に躍りでた。
報道各社は自前の情勢調査を1面トップや準トップでセンセーショナルに扱うことが通例になっている。だが、的外れの世論調査を大々的に報じることは、いくら予想であっても「誤報」ではないか。投票前の有権者をミスリードしかねない。私は不確かな情勢調査を大きく報じることに懐疑的で、選挙報道の欠陥と考えてきた。今回の選挙では、まさに不正確な情報を有権者に提供するという失態を演じた。
調査はコンピューターで不作為に抽出した番号に調査員が電話(固定と携帯)をかけ、得たデータをもとにされる。だが、知らない番号からかかってきた電話に応答しない人が近年増えており、妥当なデータに行き着くのか疑問だ。
併せてインターネット調査もされるが、委託された調査会社の不正問題も発覚している。報道各社はなぜ、はずれたのか、検証し報じるとともに、調査方法を見直す必要があろう。
選挙の勝敗を
伝える報道に
岸田首相は自民党総裁選で打ち上げた金融所得課税の強化や健康危機管理庁の創設を公約に盛り込まず、ぶれた印象を与えることになった。先にあった総裁選に比べ、衆院選報道は新聞、放送ともに「低調」で、劇場型といわれる報道もみられなかった。一方、たとえば毎日新聞の「政策を問う」や「経済政策を問う」、読売新聞の「政策分析」など、有権者に判断材料を示す各社の政策報道は充実していた。
これは皮肉な見方をすれば、岸田首相が、政策が生煮えのまま奇襲ともいえる選挙を仕掛けたことで、突っ込みどころが多くあったということでもあろう。ふだんから、耳目を引きやすい政局報道だけでなく、成熟した地道な政策報道に力をいれる契機としたい。
選挙結果を伝える11月1日朝刊をみると、朝日新聞は「自民伸びず 過半数維持」、毎日新聞は「自公堅調 絶対多数」という主見出しを1面に取った。毎日の見出しに違和感はないが、朝日の「自民党伸びず……」という現状認識に疑問をもたずにはいられない。
岸田氏は情勢調査などから一時、惨敗を覚悟し、枝野氏は勝利を確信したと思われる。「現有議席を割るとは夢にも思っていなかった」という立憲の福山哲朗幹事長の言葉からも察しはつく。しかし、結果は自民が絶対的安定多数を手中にするという、くっきりとした明暗があった。自民は予想以上に伸び、「圧勝」したのである。
読売新聞は1面の脇見出しで「立民惨敗」と取っていたが、在京紙をみるかぎり「自民勝利」という見出しも記事もみられなかった。衆院選は政権選択選挙であり、正確な現状把握のために勝ち負けをきちんと告げる必要性があろう。
首相はぶれず
野党は再編を
かくして岸田氏は選挙に勝った。しかし、安倍氏ら党重鎮の顔色をみて政策や態度を朝令暮改しており、ひ弱さが目立つ。
池田勇人元首相が創始者である出身母体の宏池会の、憲法を尊重する考え方や弱者救済を優先する経済政策とは相容れない発言をしている。派閥先輩の「所得倍増」計画を単にスローガンにし、旗色が悪くなると引っ込めるという態度はとらずに、岸田氏は右に大きく振れた政治を中道に戻していくべきだ。
立憲は再建、野党は再編を進めることになろう。政治報道はこういう時だからこそ、建設的で批判的な政策論を国民に届けたい。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号