今年8月、女性政治家に関する本が2冊、ほぼ同時に刊行された。マリオン・ヴァン・ランテルゲム『アンゲラ・メルケル─東ドイツの物理学者がヨーロッパの母になるまで』(東京書籍)と、岩本美砂子『百合子とたか子―女性政治リーダーの運命』(岩波書店)である。
前者は、今年惜しまれつつ引退した「ヨーロッパの盟主」の評伝。ベルリンの壁崩壊後、政界入りしたメルケルは、すぐに頭角を表わし、時には「策略家かプロの殺し屋かと思われる才能で」政敵を葬り、「カリスマ性のないシンプルな権力」を築き上げた。
その特異な出自から自由と民主主義の大切さを重んじる彼女は、アメリカでトランプが大統領に当選を機に、4期目も続ける決心をしたという。
長年にわたる観察と周辺への丁寧なインタビュー取材にフランス人女性という書き手の視点も加わり、困難な時代に16年間、なぜ権力を維持できたのか、その理由の一端を垣間見ることができた。
もちろん単なる礼賛本ではなく、金融危機の際のギリシャへの頑なな姿勢、(首相になる前だが)イラク戦争に賛成したことにも、批判的に言及している。
後者は「日本政治史上女性首相に最も近づいた」2人の軌跡を追った上で、日本で女性政治リーダーが、なぜ育たないのか、育てるにはどうしたらいいのかを論じている。メルケル伝と合わせて読むと、近いうちに日本で女性首相が誕生することがあるだろうかと暗澹たる気持ちになる。
もう一冊、女性に関わるテーマの意義ある出版として、メアリー・ホーランド他『子宮頸がんワクチン問題―社会・法・科学』(みすず書房)を挙げたい。
「反ワクチン」本ではないが、副反応の問題、臨床試験の信頼性や製薬会社の宣伝戦略の実態など、多岐にわたる論点が網羅されている。2013年6月以来中止されていたHPVワクチンの「積極的勧奨」再開が、正式に承認された今、沈黙している日本のジャーナリズムでも、活発な議論を展開してほしい。