2022年01月28日

【おすすめ本】望月衣塑子『報道現場』─事実を究め本質に迫る、愚直な記者の現場日記=河原理子(東大大学院情報学環特任教授)

報道現場は「端境期」にある。情報の流れは激変し、さらにコロナ禍で取材も制約されている。けれども「事実を明るみに出す」記者の仕事は変わらないのだと、愚直に質問を重ねる東京新聞記者の著者の、現場日記のような本だ。
 テーマは広い。一昨年春「感染対策」のため1社1人に制限され、ついに著者が出られなくなった官房長官会見のありよう。その秋、日本学術会議会員候補6人の任命拒否。翌春、入管施設でウィシュマ・サンダマリさんが衰弱して亡くなった事件など。

 更新されるニュースを追いきれなかった読者も、おさらいしながら、根底にある問題に触れ、著者が何に怒りどんな時に達成感を覚えたのか、追体験できる。
 <本書を読むのに、政治や社会問題の知識はいらない。「記者ってこん なことをしているのか」などと楽しみながら(略)読んでもらえたらうれしい>と初めにある。専門的な解説を目指した本ではない。
 そのなかでも「日本学術会議問題と軍事問題」の章は読み応えがある。著者は、軍事研究をめぐり学術会議を前から取材してきた。任命を焦点にした官邸との攻防が、実は2014年には始まっていたことは、著者にも打撃だったろう。

 官邸の不当な介入を公にして抗議しなかった当時の学術会議の対応を批判する。とともに、16年と18年には欠員のままになっていたのに、著者を含め報じなかったことを「恥を忍んで記す」。
 明るみに出すのは、他者の不都合な事実だけではない。その率直さが本書の骨格を支えている。(角川新書900円)
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posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする