2022年02月11日

消えた南鳥島案を追う HBC「核のごみ」で芸術祭優秀賞 学生時代の思い胸に制作=山崎裕侍

                       
北海道放送:核ごみ特番サムネイル・機関紙用.jpg

「核のごみ」処分地をめぐり揺れる北の大地。この問題を追い続ける北海道放送(HBC)の山崎裕侍報道部編集長に、文化庁芸術祭優秀賞を受賞した思いを寄稿してもらった。
      ◇
 僕にとってこの番組はある人の存在なしには作り得なかった。番組とは2021年11月20日に放送したドキュメンタリー「ネアンデルタール人は核の夢をみるか〜核のごみ≠ニ科学と民主主義〜」。第76回文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。
 高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの文献調査が全国で初めて行われている北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村。番組は寿都町長が突然、調査の応募検討を表明してから、賛成派と反対派に分断されていく小さな町や翻弄される住民を描いた。さらに地震の多い日本で地層処分は危険だと主張する地質学者などを取材し、科学的な検証を試みた。そして去年10月の寿都町長選挙に密着し、国全体の問題である核のごみが地方の問題に押し込められている現状を訴えた。

鎌田慧さんの教え
 受賞理由の一つが「南鳥島を最適地とする提案があることなど知られざる事実を抉(えぐ)りだした」ことだ。この南鳥島のことを教えてくれたのがジャーナリストの鎌田慧さんだった。きっかけはドキュメンタリー番組「ヤジと民主主義」が「第3回むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」を受賞し、その贈賞式で審査員の鎌田さんと出会ったことだった。懇親会で鎌田さんの隣に座った僕は、取材中だった核のごみについて、鎌田さんの考えを聞いた。するとこう切り返された。
 「核のごみの文献調査が進んでいるけど、南鳥島が適地だという説があるの知っているかい?」
南鳥島説をこのとき僕は初めて知った。数日後、鎌田さんが僕にファックスで送ってくれたのは南鳥島が適地と紹介した静岡県立大学の尾池和夫学長のエッセイだった。番組では南鳥島案を最初に提案した平朝彦・前海洋研究開発機構理事長を取材し、経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)がその提案を蹴ったことを明らかにした。
 鎌田さんにはもう一つ恩がある。著作の一つ『ぼくが世の中に学んだこと』の最後の方のページに学生時代の僕が引いた赤線が残っている。
「工場では、少数派として、仕事や昇給でどんなに差別されていても、すこしもひるむことなく、自分の主張をつらぬきとおすひとたちがいる。民主主義とは、このようなひとたちによって、ようやくもちこたえられる」

市井の人々の言葉
 「国家」や「国益」という大きな言葉の前では、市井の人々の小さな言葉はかき消されてしまいがちだ。だが人々のたゆまぬ言葉が民主主義と自由を支えている。それを若い僕に教えてくれたのが鎌田さんだった。
 核のごみも同じだ。国民一人一人が考えるべき問題のはずなのに、去年10月の衆議院選挙では、候補者はおろか全国紙すら争点として取り上げなかった。文献調査が行われていることで「バックエンドの問題は解決した」とばかりに推進派は原発の新規建設に向けて動きを始めている。無関心と打算のなか、寿都町の住民は切ないほど真剣だ。核ごみ受け入れ賛成派も交付金がほしいだけではない。原発の恩恵を受けた責任を自分たちが引き受けようと考える人もいる。だが国は「地元の判断」とうそぶき、国民的議論をしようとしない。
 国策に振り回される住民、国に抗う科学者たちを追いかけたのがこの番組だ。賞の栄誉は、小さくても声をあげて闘っている人たちに輝いている。
 山崎裕侍(北海道放送・報道部編集長)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号

山ア裕侍.jpg
posted by JCJ at 01:00 | 北海道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする