新しい感染症が人類を脅かす─この警告は、昔から何度もされてきた。SARS(重症呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)は「コロナ」ウイルスだ。コロナが変異する事実は知られていた。スペイン風邪が猛威を振るったのは100年ほど前だ。全世界で5億人が感染し死者は1億人を超す。
新型コロナの襲来に際し、感染制御に重要な初動に失敗が続いた。今も検査や治療、後遺症への対応など不十分だ。過去の苦い経験や専門家の提言を無視した「失政」が見え隠れする。
法の解釈を変更して、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客ら3711人を感染者や濃厚接触者として隔離したが、感染者713人と死者13人を出した。政府が事態を過小評価し神奈川県に丸投げし高熱や呼吸困難などの症状を訴える乗客が相次いだ現場では、厳しい判断を迫られた。
官僚組織や政治の壁が幾重にも妨げになったものの、現場では無症状か軽症の陽性者は自宅かホテル、中等症者は重点医療機関、重症者は救急救命センター等に振り分ける現実的な「神奈川モデル」を作り上げた。
著者は、安倍・菅政治がコロナとの闘いに敗れた、と断ずる。「小さな政府」を指向し患者負担増と医療効率化など医療削減を進めたツケが、今日の医療崩壊に結び付いたとも。
本書を評する私も、コロナと闘う医療者の1人であり、「医療は国民 の安全保障」と強調する邉見公雄医師の言葉は胸に刺さる。いのちや暮らしを大切にする政治であるべきだ。(岩波書店1800円)