2022年03月19日
【裁判】五輪選手村訴訟 控訴へ 9割引「適正」不当判決 都側の主張丸のみ=橋詰雅博
東京都が中央区晴海の五輪選手村用地をデベロッパーグループに超廉価で売却したのは違法だとして東京地裁に提訴した原告団は、地裁の「売却価格は適正」とした昨年12月の判決を不当だとして東京高裁に控訴した。原告団が開いた1月25日の報告集会=写真=に出席した原告代理人の淵脇みどり弁護士は「一審は負けました、しかし、地裁は自分で判断しながら、重ねてその判断に反する判断を迫られている。矛盾に満ちた判決内容です。最高裁でも争うぞという姿勢を見せられるような控訴理由を争点化していきます」と話した。
五輪選手村訴訟は、銀座から近い都内一等地、晴海の都有地(13・4f)がデベロッパー11社に129億6000万円と公示価格の10分の1以下で売られたことが発端だ。32人の都民は「周辺の地価などから算出した適正価格は少なくても約1339億円で、都民財産を不当に安く処分した」と2017年8月に住民訴訟を起こした。小池百合子都知事らに差額を請求するよう都に求めたのである。
被告(東京都)代理人の弁護団は、はじき出した金額は「選手村要因」が根拠と説明した。選手村要因とは@道路などのインフラ整備の完了Aデベロッパーが施設建築物を建設、取得した上で、土地を譲り受けるB施設建築物の一部を五輪大会期間中に選手用宿泊施設などとして使用し、大会終了後に改修の上、分譲または賃貸する―などだ。原告弁護団はこういう条件を設けること自体納得がいかないと反論。それならば選手村要因を考慮した価格を出すと、原告で不動産鑑定士の桝本行男さんが算出した価格は1653億2100万円だった。
しかし、分譲・賃料単価や工事費の各査定額で桝本鑑定は不合理とした一方で利益や処分に制限がある土地という被告の主張を認めた裁判所は、都が依頼した日本不動産研究所の価格調査報告書(不動産鑑定書ではない)は「価格を的確に示している」と下した。
そもそもこの市街地再開発事業は、都が地権者、施行者、認可権者を兼ねている。自治体の再開発事業では都のような一人3役≠ヘ過去に例がない。前代未聞というべきこんな手法を用いたのは、都が個人施行者になると、議会や都市計画審議会、財産価格審議会を経ずに都が直接土地を売れる。この脱法的な手法の背景には都とデベロッパーグループとの事前協議の場で一人3役というアイデアをひねり出し、売却価格の目安も話し合う官製談合があったと原告弁護団は見ている。
原告弁護団は「判決は、自治法、不動産鑑定制度、再開発事業制度の根幹を揺るがす極めて不当な判断」と断じた。
控訴審ではまっとうな審理と判決を期待したい。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号