2022年03月20日

【今週の風考計】3.20─ゼレンスキー大統領夫妻が心こめて歌う「Endless Love」

ウクライナのゼレンスキー大統領夫妻が、それぞれギターをつま弾きながら、デュエットで歌う映像が、YouTubeやスマホなどSNSで拡散されている。
 しばらく前の映像だが、歌っているのは名曲「Endless Love」(エンドレス・ラブ)。ジージャンを着て、見事にハモッて歌う2人の表情が、なんとも美しい。
 この名曲は、1981年にリリースされたライオネル・リッチーとダイアナ・ロスによるデュエット曲。タイトルと同名の映画「Endless Love」の主題歌である。

いまテレビで見るゼレンスキー大統領は、濃いモスグリ−ンの半袖・丸首シャツを着て、カメラの正面に向かい、ロシアの侵攻に抗して戦う国民や世界の人々に呼びかける姿ばかり。だが、その姿の奥深くには秘めた<限りない祖国愛>が漲っているのだと、いまさらながら気づく。
 コメディ俳優出身の44歳とはいえ、国民の心に響くような語り口で勇気づける「戦時指導者」として、求心力を高めているのも頷ける。「政治信条がないポピュリスト」との批判など吹っ飛んで、いまや支持率は91%、昨年末から3倍に跳ね上がっている。
3年前の春に行われた大統領選の決選投票で、ポロシェンコ前大統領に圧勝。その後ウクライナ東部の紛争が長期化し、また汚職のまん延で支持率は低迷していたが、ロシアの侵攻を受けると状況が一変した。

ゼレンスキー大統領の妻オレナ・ゼレンスカ夫人も44歳、2人の子供を持つ母親として、「ロシアが子どもを含む民間人の<大量殺人>を行っている。あと何人子どもが死ねばいいの!」と、必死にロシア軍の侵攻に抗議の声を挙げ、反撃の闘いへ参加するよう呼びかけている。
 ウクライナはロシアがクリミアを併合した2014年以降、女性も戦闘任務に就くことが可能になり、全体の15%・3万人以上が女性兵士という。
ゼレンスキー大統領と共にキエフに残る国会議員で「声の党」党首、キラ・ルディクさんは、国際女性デーの3月8日、こう述べている。
 「今年、私たちが手にしているのは花だけではありません。銃も手にしています。狂気の独裁者プーチンと彼が持ち込んだ戦争に対し、ウクライナの女性たちに『立ち上がって戦いましょう』と何度もお伝えします」

なぜか昔、仲間と演出・上演したドイツの作家・ブレヒトの演劇<カルラールのおかみさんの銃>に思いが走った。「汝、人を殺すなかれ」の教えに立つ母親が、夫だけでなく愛する息子まで独裁者に殺されたのを契機として、自ら銃をもって闘いに参加するドラマだ。セリフの言い回しや時代背景の解釈をめぐり、議論を重ねたのが懐かしい。
 ひるがえってウクライナに戻れば、銃を手に取り闘いに参加する女性たちがいる一方、国境付近では父や夫らと別れ、悲しみに暮れながら子を連れて逃れていく女性が数多いのも現実だ。
16日にはロシア軍が、南東部マリウポリ市の中心部にある劇場を空爆した。この演劇舞台がある劇場の地下は、住民の避難場所になっていた。千人を超える避難者には多くの子供や女性がいて、多数が生き埋めになっている。プーチンよ、この<罪と罰>は、永久に汝のもとに降りかかるのを忘れるな。(2022/3/20)
posted by JCJ at 05:00 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする