2022年04月28日

【映画の鏡】モノが言えぬ社会を問う『テレビで会えない芸人』密着取材で地方局の覚悟を示す=鈴木賀津彦

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            @鹿児島テレビ放送
  テレビに出ない芸人、松元ヒロ。舞台の公演は連日満員、チケットは入手困難、密かに注目を集める。「政治や社会を笑いで斬るその芸はテレビでは会えない―、なぜか」と、ヒロの出身地のローカルテレビ局「鹿児島テレビ」のプロデューサー四元良隆らが取材を始めたのは2019年春。1年間密着し20年5月の番組「ドキュメント九州」で放送された「テレビで会えない芸人〜松元ヒロの世界」は反響を呼び、日本民間放送連盟賞最優秀賞、ギャラクシー賞優秀賞などを受けた。
 評価されたとはいえ、番組をこのまま映像資料としてお蔵入りさせるのではなく、広く全国に発信していくために映画化に向けて取材陣は動き出す。「カメラを向けると、見えてくる。規制に縛られた既成のメディア、言論と表現の自由、モノが言いづらい世の中。社会の空気に流される自分たち(テレビ)の姿があった。これからのテレビはどう在るべきか。このドキュメンタリーは僕らなりの、テレビで会えない芸人への挑戦状であり、感謝状である」と、監督の四元さんは話す。
 映画は冒頭、「やっぱり際どいネタを扱っているからでしょう」「クレームとかトラブルとか―まあ予防線は張っておきたいという―」など、「会えない理由」を話す局長や部長ら幹部の本音の声が流れる。テレビマンがテレビ局自身の問題点を深掘りしていることに、危機的なメディア状況への現場の覚悟を感じさせる作品だ。『さよならテレビ』を制作した東海テレビの阿武野勝彦がプロデュ―サーに入り、テレビマン同士の社を超えた制作協力にも注目したい。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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