「国や都道府県相手の裁判は、非常に勝つのが難しい。向こうさんには行政権行使の広い裁量があって、なかなか違法と認定されないのです。したがって、一部でも勝訴するということは、それだけでも大きな意義があります」と、一審判決前の「もの言う」自由を守る会機関紙に書いていた岡本浩明・原告弁護団副団長。それが、確かに一部ではあったが、勝訴してしまいました。
その際、こうも述べています。「情報提供行為については、原告の同意もなく提供されたものなので、勝つ可能性があります」。勝訴すら予言していたのです。
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岐阜県警大垣署が、風力発電所建設に反対する住民の情報を、事業主の中部電力子会社に提供したのは違法だとして賠償を求めた裁判で、2月21日「違法」の判決が下った。岐阜地裁の裁判長は「個人の思想信条や私生活など保護する必要の高い情報を積極的、意図的、継続的に提供したのは、悪質と言わざるを得ない」として、原告の4人へそれぞれ55万円ずつ支払うよう岐阜県に命じた。
原告らは風力発電の勉強会を開いていたに過ぎず、「公共の安全や秩序の維持に危害が及ぶ危険性は生じていなかった」と指摘し、情報提供の必要性はなく、国家賠償法上違法と判断した。いずれにせよ、申し分のない素晴らしい勝訴だったのは間違いない。そして思った。収集した情報の利用の面で、裁判所が厳しく断罪したのは、公安警察にはとても衝撃的だったかもしれないと。
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勝訴の話はここまで。ここからは敗訴の話に転じたい。
冒頭の岡本弁護士の手記を読んで、弁護団が一番訴えたかったのは、情報提供の勝訴より、公安警察の「公的根拠のない情報収集活動」の違法性を裁判所に認定させることだったのではないだろうか。
認定を勝ち取れば、やりたい放題の公安活動にストップをかけ、法的コントロールを及ぼす第一歩になる期待が生まれる。だから。裁判所が自信をもって違憲・違法の判断を下せるように世論で後押しをしようというのである。
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その期待は実らなかった。判決では、公安の情報収集について「必要性はそれほど高いものではなかったが、原告らの活動が市民運動に発展した場合、抽象的には危険性がないとはいえない。万が一に備えて情報収集する必要があったことは否定できないので、違法とまでは言えない」と違法性を否定した。
また個人情報の抹殺請求については、請求が特定されていないとして却下された。公安警察察が個人情報を収集し、保有し続ける限り、国民の政府に対する市民活動や表現活動を委縮させるものである。本判決は、この観点からの判断が不十分といわざるを得ない。引き続き、認定されるよう取り組んでいってほしい。
原告側が3月7日、控訴した。岐阜県側も県議会の議決を経て近日中にする予定だ。
古木民夫(東海支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号
2022年04月29日
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