2022年04月30日

【好書耕読】沖縄タイムス編『庶民がつづる沖縄戦後生活史』─米軍の沖縄占領を考える=謝花直美(沖縄タイムス記者)

 沖縄の占領開始から施政権返還までの27年間は、沖縄の言葉で「アメリカ世(ゆー)」と呼ばれた。その時代を生活史の視点から捉えた、沖縄タイムス編『庶民がつづる沖縄戦後生活史』(沖縄タイムス社1998年)を挙げたい。
 「沖縄タイムス」が戦後50年の節目に、50のキーワードを立てて、読者投稿を募り、紙面に掲載後に一冊にまとめたものだ。
 飢えや物資不足で米軍の食糧や物資を持ち去る「戦果(せんか)」という言葉も、その時代を象徴する。「ライス10俵の戦果を隠語で母艦10隻撃沈と言ったり、洋酒8ケースの戦果は戦艦8隻撃沈と言ったり、大本営発表のような言い回しだった」という。
 また、「戦果」の酒がメチルアルコールではなく、医療用アルコールであったことに安堵し「ヌチヌスージ(命拾い祝い)」をした笑い話もある。厳しい現実にありながらも、占領者への対抗意識からユーモアを交え表現するしたたかさが伝わる。

 いずれの文章も、人々が知恵を絞って歩む様子を生き生きと伝え、喜怒哀楽とともに生活を記録する。
 四半世紀たっても同書が古びないのは、国際政治史や米軍への抵抗を主軸とした沖縄戦後史に登場しない人々の姿が描かれているからだ。
 一方、同書は現在の沖縄と「復帰」の向き合い方にも課題を投げかける。「アメリカ世」を懐かしさや「異文化体験」に留めず、生活史としていかに描くかという課題だ。
 「懐かしい」生活史の事象は占領の現実と共にある。いまだに沖縄戦後史の襞(ひだ)にいる人々と向き合い、米軍占領がもたらしてきた現実と往還しながら書くことが求められている。それは、当時の人々の生存が、いかに占領に規定されていたのかを示し、同時に現在の沖縄に与えている影響を考えることでもある。
 復帰50年、戦後77年の年に、沖縄占領を生活から知るための貴重な書だ。
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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