2022年05月19日
【新聞】地方支局弱体化を危惧 平和報道「矮小化せず」広島に根付き、問題提起へ=須貝道雄
JCJは3月19日、「いま、地方から発信する意味――なぜ全国紙記者からフリーに?」と題するオンライン講演会を開いた。講師は元朝日新聞記者の宮崎園子さん。広島支局を最後に19年間勤めた朝日を2021年夏に退職。広島で子育てをしながらフリーで取材をしている。朝日を辞めた理由は「出身地の広島に根付き、生活者の目から問題を提起していきたいから」だった。
全国紙はいま経営の悪化から、地方支局の記者を減らすなど、経営資源を東京に集中しつつある。地方の取材拠点が弱体化しており、宮崎さんは「ジャーナリズムの毛細血管が壊死しかけている」と危機感をあらわにした。
支局の人数が減る一方で、本社からの注文は増え、支局が「下請け」となって振り回される。デジタル版やSNSへの対応も常時求められ、若い記者はじっくりと問題を考察する余裕がないという。
勤務地を1〜2年で異動することも問題が多く、人材の回転が速すぎて「大局的、質的な変化をとらえることができる記者が少ない」と指摘した。
地方取材が土台にあってこそ、全国紙の報道が成り立つと見る宮崎さんは「東京だけでは日本を語れない。地方を切り捨てて、どうやって新聞は持続できるのか」と批判。ローカル限定の記者を採用したり、紙面編集を東京から地方拠点に移したりする方策を考えるべきだと経営者に注文した。
被爆地の広島では「平和教育」が盛んだ。しかし1945年8月6日の「過去の点」だけに焦点を絞る教育、報道を宮崎さんは疑問視する。
「被害は点ではなく面の様にずっと続き、今に至っている。あの8月6日に亡くなった人たちがどんな社会を望んでいたか、いま足元で何か足りないものはないか、と今の世の中の不具合をつきつめていく。そうした教育や報道が必要でないか」
「平和=核兵器廃絶」という形で、平和の意味の矮小化にマスメディアが寄与しているのではという問題提起もあった。核廃絶の前に、たとえばジェンダー不平等など、様々な社会問題がある。過去だけでなく、現代政治も含む幅広い視野から、平和の問題を多様な形で「因数分解する必要がある」。宮崎さんが力をこめた言葉だ。
須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号
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