2022年05月21日
【映画の鏡】政治が歪めた教育の現場 『教育と愛国』露骨な介入リアルに取材=鈴木賀津彦
「日本人というアイデンティティを備えた国民を作る、それはやはり教育の現場を変えていくということ」だと安倍晋三氏が本音を語る映像が象徴的だ。首相に返り咲く前の2012年2月に開催された「教育再生民間タウンミーティングin大阪」で、大阪府知事だった松井一郎氏とともに登壇しての発言である。
それから10年、「教育再生」の名のもとに進む教育現場へ政治介入のリアルを、大阪・毎日放送(MBS)ディレクターの斉加尚代監督が危機感を持って取材し続けたドキュメンタリー作品だ。
MBSで17年に放送された番組「映像’17教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか〜」はギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞するなど注目された。その後も、「慰安婦」を取り上げる授業が「反日」とレッテルを貼られ教師がバッシングにあうなど、激しさを増す動きを追加取材し再構成した内容だが、ウクライナへのロシアの軍事侵攻に絡めて国内では「核共有」や軍備拡大、改憲の動きなどが勢いづいているだけに、今こそ、この作品を見る意義が大きいのだと感じている。
斉加監督は取材相手の本音を粘り強く引き出すのが得意のようだ。特に多くを語りたがらない「政治介入は必要だ」という保守系の学者などからも、とても空疎な本音を聞き出していて、何ともコミカルな場面が見られる。
先月の本欄で紹介した映画『テレビで会えない芸人』の主役、松元ヒロさんが試写会に来ていて、「ネタになるよ、コレ」と感想を述べていた。笑える映画でもある。5月13日から順次全国で公開。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号
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