日本のシングルマザーは先進国で最も就労率が高いのに相対的貧困率も最も高い。そして、その貧困は子供の就学機会に影響し、貧困の連鎖へとつながる。本書はこの日本社会の謎と課題の制度的経緯に迫りつつ、それがシングルマザー達の生活にどのように影響するのか、筆者自身と6人のシングルマザーのエピソードから紐解いている。
本書は1985年を女性の貧困元年と位置付ける。この年に日本型福祉社会を決定づける事になる第三号被保険者制度・男女雇用機会均等法・労働者派遣法が成立した。これによりシングルマザーなどいないかのような社会システムが作り上げられる。さらに、就労支援・労働環境・社会福祉・養育費・女子教育などの制度の綻びが追い打ちとなりシングルマザー達を貧困へと追いやっている。
シングルマザー達のエピソードは、途上国をフィールドとする評者が見てきた、予期せぬ出来事に対処できないという貧困の本質と一致する。予期せぬ教育費・病気・障害・不景気・疫病の流行などがシングルマザー達を追い詰めていく様は、あまりにも途上国の貧困と類似しており、先進国である日本でもこうなのかと驚かされた。
他国の優れた制度・政策から学ぶ事は重要だが、文脈の違いを考慮せず、他国に理想郷を見てしまっているのは本書の弱点に移る。しかしこれも、それ程に追い詰められた日本のシングルマザー達の苦境に起因していることは論を俟たない。
本書は、新型コロナ禍から誰一人取り残さない社会へとBuild Buck Betterするための道標となるだろう。(集英社新書920円)
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