2022年06月08日
【オンライン講演】維新の会なぜ受ける 在阪メディアの劣化 10年余、大阪行政を牛耳る これ以上勢いづかせると危険、松本創さん語る=橋詰雅博
日本維新の会をウオッチするジャーナリストの松本創(はじむ)さん=写真=は4月16日のJCJオンライン講演会で維新政治や在阪メディアの劣化≠ネどを語った。
昨年10月の総選挙で公示前の4倍近い41議席を獲得した維新の会。衆院で野党第二党に台頭したこの政党は改憲、軍備拡張、弱者に背を向ける新自由主義を掲げ、ロシアのウクライナ侵攻に乗じた日米による核兵器共有を言い出した。自公政権を補完し、もはや野党とはいえないような党がなぜ国民に受けるのか。
後ろ盾はテレビ
松本さんは、維新の地盤である大阪のメディア、とくにテレビが人気に火をつけあおったことが大きな要因と指摘する。維新こそ一番の政敵とみなすれいわ新選組の山本太郎代表は「維新の後ろ盾は完全にテレビなんですよ。維新を怪物にしたのはメディアだなと感じますね」とテレビの責任が重いと断言している。
その典型的な例として毎日放送(MBS、大阪市北区)の今年の元日バラエティー特番「東野&吉田ほっとけない人」を挙げた。出演した維新の創設者の橋下徹元代表、現代表の松井一郎大阪市長、副代表の吉村洋文大阪府知事の3人が吉本興業芸人を相手に「大阪都構想は掲げ続ける」「将来の首相は吉村さん」などと45分にわたり好き勝手に言い放った。政治的な公平性さに欠けるなど局内外からの批判を受けた虫明洋一社長は「問題があった」と認識を示し、社内調査チームを立ち上げた。3月に公表された調査報告書では、維新3人組が出たら面白いからと番組づくりの動機を話した制作スポーツ局担当者らには維新の広報になりかねないという意識すらなかったことが分かった。
報道の意識ない
松本さんはこう言う。
「バラエティー番組が中心の制作スポーツ局ディレクターやプロデューサーは、ジャーナリズム意識を持っていないと思う。だから3人に維新政治を自画自賛させてしまった。若者のテレビ離れが著しいとはいえ、報道に力を入れてきたMBSで視聴率優先の動きが出てきているのは深刻な問題だ。お笑い芸人が司会する在阪民放の報道とバラエティーのミックス番組が維新を盛り立てている」
劣化≠ヘ新聞にも起きた。読売新聞大阪本社は大阪府と府政情報発信など8分野で包括連携協定を昨年暮れに結んだ。権力監視の役割を担う新聞社が監視の対象である大阪府とパートナー関係を築く。大阪を牛耳る維新という権力者へのすり寄りであり、新聞メディアの劣化を象徴する出来事ではないか。
「昨年1月ごろ大阪府に協定の申し入れをした読売は、府の関係機関などへの販売部数拡大と2025年大阪万博への参画による広告・事業収入が狙いではないか。発表で初めて内容を知った読売社内では問題視されなかったという。部数激減で経営が厳しいという背景があるが、新聞が大阪府の広報機関になる恐れがある」(松本さん)
妨げる方策は…
ただし、維新人気は在阪民放の産物という単純な見方はあたらない。関西学院大の善教将大教授は「メディア効果は限定的。吉村知事のテレビ露出で支持が増えたわけではない」と分析。それならば学生から高齢者まで幅広い年代の支持を集める理由は何かと松本さんは、維新支持者らに徹底取材した。明らかになった理由は@国会議員の文書通信交通滞在費(問題に火をつけた吉村知事自身、衆院議員辞職の際、文通費を満額受け取り批判が跳ね返った)や行政組織・労働組合などの既得権益批判と打破A私立高校授業料無償化、公共公園・トイレの改修、中学校給食の導入といった身近な改革B学校の補助金を保護者や生徒に直接給付する新手の行政サービスなどだ。また選挙では維新所属の17人の首長と242人の地方議員が自民党顔負けのどぶ板運動を展開する。大阪の政治行政を10年余も仕切ってきたのでこうしたことが実現できた。
7月参院選を控え維新の勢いを妨げる方策について松本さんは「有権者の4割は態度未定層と見られています。反維新勢力はこの層に働きかけ世論を動かす。主張や理念ではなくファクトで示す。大阪なら例えばカジノが中核のIR(統合型リゾート)施設は、黒字化は54年後という公表データを用いて反対の論陣を張る」と提案した。
維新をこれ以上、勢いづかせると危険だ。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
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