2022年06月09日

【リレー時評・拡大版】沖縄復帰50年 基地問題への意識の差歴然=與那原 良彦(JCJ沖縄)

                              
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  「はいはい沖縄、はいはい基地問題」。ラジオ・パーソナリティーのジョン・カビラさんは沖縄タイムス・朝日新聞共同企画「写真が語る沖縄」のインタビュー(5月6日付沖縄タイムス朝刊)で、沖縄の基地問題や所得の低さなどの話題を聞き飽きたというような反応をされることを明らかにした。

 似たよう体験がある。東京で勤務していた数年前、行きつけの飲み屋で隣り合った初対面の老紳士と基地問題で議論になった。老紳士は「沖縄は基地で大変だけど、場所的に仕方ないですね」と語り始め、「基地がないと生活できないでしょう」と繰り返した。私が「基地経済は縮小し、県民所得に占める割合は5%程度。政府からの交付金も県民1人当たりの額も全国で最も多いわけではない。県民世論も新基地建設反対が多い」と説明すると、激高し、「君たちは日本人ではない」と吐き捨てた。政府に楯を突く人間は「日本から出て行け」と言われた。
 
 「溝は深まった」

 1972年の復帰から50年がたった。5次にわたる振興計画で、インフラの整備が進み、県民生活の一定の向上は図られた。だが、国土の0・6%の沖縄に米軍専用施設の約7割が集中し、所得は全国最低だ。過重な基地負担が続き、「復帰とはなんだったのか。50年で何も変わっていない」という不満と疑問を持つ県民は少なくない。
 復帰50年の節目に、新聞社やテレビの各メディアが特集面、連載、特集番組を企画し、沖縄の戦後や復帰後の変化、現状を取り上げている。力作も多く、沖縄への理解が深まることを期待する。しかし、簡単なことでないと思わざるを得ない。大きな歴史の節目や政権を揺るがす問題が生じたときは、沖縄報道は熱を帯びる。時が過ぎると、沖縄が訴えてきた問題に解決が見られていないにも関わらず、潮が引くように報道量は減っていく。何度も繰り返されてきたことだ。恐らく、5月17日以降は、沖縄報道は熱を失うのではないかと心配している。

 沖縄県内と全国的な沖縄報道のありようは、意識の違いにも影響を与えているだろう。沖縄タイムスと朝日新聞社、琉球朝日放送(QAB)が復帰50年に合わせ実施した県民意識調査(沖縄タイムス5月11日付朝刊)で、沖縄に集中する米軍基地に関し「減らすのがよい」との回答が61%で、「全面的撤去」も15%だった。「今のままでよい」は19%だった。一方、朝日新聞が全国で実施した調査では「減らすのがよい」は46%で、「今のままでよい」は41%に上った。沖縄が求める基地の整理・縮小に関し、本土との意識の差が浮き彫りとなった。

 県民意識調査で、本土の人たちが沖縄のことを理解しているか尋ねたところ「そうは思わない」は8割に上った。
 沖縄への認知度は高まり、住みたい人気県に選ばれることもある。その一方で、構造的、差別的といわれる基地問題への温度差は歴然としている。「沖縄と本土の距離は縮まったものの、溝は深まった」とさえ指摘される。

 報道側の責任は

 過重な基地押し付けに対し、本土側の無理解、無関心をなくし、問題を解決するには政治が責任を果たすべきである。一方で、政権を担う政治家や官僚を取材し、報道する側の責任も問われるべきと考える。
 沖縄の基地問題を象徴する辺野古新基地建設の断念で最も期待が高まったのは、民主党を中心とした政権交代時だ。ご存じの通り、「最低でも県外」と言及した鳩山由紀夫首相は辺野古建設に回帰し、辞任した。菅直人新首相の就任直後、大手メディアの政治部長は「新政権は辺野古推進を明言し、上々の滑り出しだ」と解説した。「問題は解決したと考えている」のかと問うと、「対外的にはそうだ。あとは国内問題だ」と答えた。

 沖縄の基地負担軽減を訴えていた報道と懸け離れた言及に唖然とした。政府と結託しているとまでは言わないものの、沖縄を犠牲にしてでも日米安保を最重視していることは変わらない。報道責任者がこのような姿勢であれば、政治家や官僚が危機感を持って沖縄に向き合い、その訴えに耳を傾けるよう重い腰を起こすことは期待できないと感じた。

 沖縄の基地問題を官邸や外務省、防衛省で取材する後輩記者に、全国メディア記者が「オールジャパンの問題を聞いてよ」と言われたことがある。記者の中に沖縄の問題を一地方の問題にすり替え、自ら天下国家を相手にしているおごりがあるのではないかと疑念が生じる。政権側と記者との実態を検証し、改革が必要ではないか。
 12年が経ち、沖縄県の玉城デニー知事は5月10日、新基地建設断念などを盛り込んだ建議書を岸田文雄首相に手渡した。民主党政権時の政治部長が語っていた「国内問題の解決」は程遠い。
  與那原 良彦(JCJ沖縄)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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